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映画・演劇のレビュー

『ジェシージェームズの暗殺』

2008-01-20 21:53:58 | 映画
 2時間40分の大作なのだが、週末の梅田ピカデリーはがらがらだった。こういう独りよがりの映画にお客さんは集まらないのは当然のことかもしれない。気合いの入った映画だとは言える。しかし、なんだか勘違いしてる気もする。

 ブラッド・ピット入魂の一作である。彼の中での拘りは痛いほどよくわかる。だが、それが作品に結びつかない。ナレーションとか映像の美しさとかからテレンス・マリックの『天国の日々』を引き合いに出し褒めてる人もいるようだが(でも、それってなんだかなぁ)僕はもう少し別のことを考えながら見ていた。

 ロバート・レッドフォードの『明日に向かって撃て!』に対するブラッド・ピットのオマージュではないか、なんて。そんなふうに見えた。『明日に向かって撃て!』は1969年に作られたジョージ・ロイ・ヒル監督の傑作映画である。

 あの時代に、<明るく切ない>列車強盗、ブッチ・キャシディーとサンダンス・キッドの二人組の物語は作られた。あれから約40年。今、あの映画の世界を再現したならこの<暗く哀しい>映画になってしまう、とでも言いたいのか、なんて。

 『リバー・ランズ・スルー・イット』で若き日のレッドフォードを髣髴させる美少年を演じて本格的に映画デビューしたブラピの中でレッドフォードの存在は大きい。監督であっただけでなく、自らの目指す方向性を示す偉大な存在でもあったはずだ。

 あれから約20年。中年の域に達した彼がケイシー・アフレックをかっての自分の位置に配して、一つの時代の終わりを描く。『明日に向かって撃て!』へのオマージュであると同時にあんな青春映画は作れない今の彼の気持ちがこの映画には込められてある。伝説を描く時のアプローチの違いが、彼なりのあの作品に対する今と言う時代からの答えを示す。これはそんな映画だ。そんなことを妄想しながらこの映画を見た。

 『明日に向かって撃て!』のラスト。主人公2人は死ぬ直前、「こんどはボリビアに行こうぜ」なんて言う。そして、周囲を包囲された中拳銃を片手に颯爽と飛び出していく。その瞬間がストップモーションになる。映画史に残る大傑作である。

 この『ジェシー・ジェームズの暗殺』もラストはストップモーションだ。(そんな気がする。2日前に見たのに曖昧。一応そういうことにして話を進める。)撃たれる瞬間ではなく、はっきり撃たれた彼が倒れる瞬間で終わる。撃たれるのはロバートである。ジェシー・ジェームズを殺した男。

 映画のラストはジェシーが殺される場面ではない。ジェシーがロバートに殺される場面は、とてもあっけない。2時間以上見てきてこれかい、と突っ込みを入れたくなるほどだ。映画はこのシーンの後、まだ30分ほど続く。死後、伝説となるジェシーと、時代から忘れられていくロバートの姿を描く。ここに作者の意図がある。

 伝説となったジェシーの亡霊に取り憑かれていくロバートの破滅を通して、ひとつの時代の終わりを描くのだ。1880年代まだアメリカが未開の国だった時代。南北戦争が終わり、西部劇の時代に別れを告げる。ようやく一つの国として、機能していく途上にある。

 そんな時代を背景に伝説の列車強盗、ジェームズ兄弟を描く。彼らの最後の姿をこの映画は描くのだ。最初の方に出てきて印象的な姿を見せるサム・シェパード(ジェシーの兄)がとてもいい。彼と共に列車を襲うジェシーを描く序盤がずっと続いたなら『明日に向かって撃て!』のような映画になるのだが、この映画は、その後、幸福な時代なんてほとんど見せず、ただ狂気に駆られ逃げるように生きるジェシーの姿が描かれていくだけだ。

 ジェシー・ジェームズはヒーローではなく、狂気に取り付かれた男でしかない。そんな男をブラピは表面的には穏やかな表情で、全く笑わない笑顔のもと演じる。

 ケイシー・アフレック演じるロバートはジェシーに憧れ、ジェシーを超えるために彼を殺し、自分自身を見失う。この男はまるでロバート・レッドフォードを超えるためにこの映画を作り、全く彼の足元にも及ばなかったブラッド・ピットその人を象徴しているような気がした。レッドフォードみたいに大スターとなったブラピが19世紀の終わり西部への夢の終焉を見せたこの映画は、その心意気とはうらはらに悲惨な出来になった。この映画には微妙なところで、今、という時代を摑み損ねている。

 ナレーションの多用や、圧倒的なテンポの悪さ、話自体の不快さ。作り手のねらいはことごとく外れた。正直言って、見ていて苦痛を感じる映画だ。全否定する気はないが、このつくり方が正しかったとはとても言えない出来になっている。

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