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映画・演劇のレビュー

『ボビー』

2008-01-17 22:38:44 | 映画
 昨年2月の公開から約1年を経てようやく見ることが出来た。エミリオ・エステベス監督作品。ロバート・F・ケネディ暗殺直前の16時間が描かれる。

 20人以上のメーンキャスト。彼らの群像劇である。よくもこれだけの豪華キャストが集結したものである。しかも決してスター扱いされないような役の人も多々いるのに、だれも文句も言わずに(まぁ、文句言った人がいてもわからないが)この群像の中に埋もれるようにして存在する。ひとりひとりが見せ場を用意してもらうというのではない。この作品の中に存在することが嬉しいからと言わんばかりの謙虚さで出演している。みんなが熱い思いを込めてこの映画を支持したのだろう。

 1968年。アメリカがベトナム戦争の泥沼からなんとか抜け出し新しい時代を切り開こうとしていた時。夢を叶えてくれるはずの男がいた。アメリカが最後の夢を見た時間。

 この映画は特定の誰かを主人公にして何かを描くというスタイルではない。主人公であるはずのボビー自体は確かにこの映画に存在するが、ニュース・フイルムの映像を使用し役者を彼に当てたりはしない。あくまでもこれはボビーを巡る時代の空気を描くことを旨とする。彼の到着を待つ人々。彼らのそれぞれの思いが短いエピソードの積み重ねの中で綴られていく。このホテルを舞台にそこに集う様々な男女。それぞれのドラマが、次期大統領候補への期待とともに膨らんでいく。そしてはじける。

 それぞれのばらばらなエピソードが、同じ時間、同じ場所で、彼の到着を待ちながら描かれる。そして、彼の死で終わる。この一つの夢に向かう物語のあっけない終末があの時代の真実である。そんな1日をこの映画は熱狂の中で描いて見せる。

 これは昨年公開されたアメリカ映画の中でも一番すぐれた作品であろう。アメリカの良心とでも言うべき佳作である。

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