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映画・演劇のレビュー

『新幹線大爆破』

2016-03-11 19:33:36 | 映画

75年の作品である。今からもう41年前の映画だ。実はこれをリアルタイムで見ている。忘れもしない。高校2年の夏だ。今は亡き京橋東映で、封切で見た。当時は日本映画は基本なんでも2本立で、この2時間半の大作ですら2本立上映された。しかも、同時上映が『ずうとるび、前進、前進、また前進』とかなんとかいうアイドルの中編映画で、あきれる。

なぜ、これを見たのかというと、友だちの家が銭湯をしていて、(当時はお風呂屋には、映画館のポスターが貼られていて、そのお礼で、タダ券が貰えた)彼から余った映画券を貰ったからだった。要するにたまたま、である。しかし、これを見て衝撃を受けた。こんな凄い映画があるのか、と思った。もう、最高に感動した。それまではほとんどが洋画ばかりで、東映映画なんて、見たことなかったけど、映画を見て、ここまで震えたことはなかった、というくらいのショックだった。当時ハリウッドがパニック映画を連発していて、『大地震』や『エアポート75』が大ヒットしていた。これはその余波で安易に作られた映画である。そのはず、が、先行するパニック映画なんかの及びもつかない傑作になった。だが、劇場はガラガラで、誰も見に来ず、幻の作品になる。

昨年、「午前10時の映画祭」で取り上げられて劇場公開された時、必ず見に行こうと、思った。昨年のプログラムは、僕にとって懐かしい作品ばかりが選ばれた。『砂の器』と『飢餓海峡』の2本は見た。だが、これには少し勇気がでなかった。怖かったのだ。もし、今見て、つまらなかったなら、どうしようか、という不安から、である。

今回DVDで見て、やはり、思った通りだった。確かに凄い映画だ。だけど、あの時の感動は高校生だったからの感動だったのだと、思う。今初めてこれを見たなら、あんなに興奮しない。あの時、感じたことは、今もはっきりと覚えている。

高度成長から取り残された中小企業の社長(高倉健)が主人公。工場が倒産し、行き場を失くして、理不尽な世の中へ復讐しようとする。学生運動崩れの男(山本圭)、沖縄から集団就職で出てきて、仕事を失った若者(織田あきら)とともに、新幹線に爆弾を仕掛けて、政府と戦う、というストーリーに興奮した。あの頃の自分の気分とこの映画はマッチした。今考えると、これは少し単純すぎるし、ストーリーも安易だ。しかし、あの頃は彼らに感情移入して、ラストでは泣いた。このアイデアに興奮したし、ドキドキした。だが、それ以上に、あの時は、この社会派ドラマに嵌ったのだ。

今の自分なら、この程度ではもう驚かない。これはあの時だったからこそ、あれだけの感動をもたらしてくれたのだろう。だから、僕は昔見て好きだった映画を見直すのが嫌なのだ。せっかくの思い出が、少し損なわれた気がする。数年前、『パピヨン』を見た時も、がっかりした。あれは、中学生だった僕が一番好きだった映画だ。あの映画を見て映画に嵌ったその最初の1本なのだ。エポックは避けるべきだと改めて思う。


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