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映画・演劇のレビュー

『鰻の男』

2016-03-09 19:17:39 | 映画

 

これは確か「未体験ゾーンの映画たち」で昨年上映された作品ではないか。そこでは、毎年未公開のさまざまなタイプの映画が大挙して上映されるのだが、(今年も50本もの映画が上映されている)なかなか見ようとは思えない。でも、何本かは「これは、」と思う作品もラインナップに紛れていて、うれしい。これもたぶん、そんな1本なのだ。

 

キム・ギドク製作、脚本である。彼の助監督からどんどん新人監督がデビューしているがこの映画のキム・ドンフ監督もそのひとりだ。『レッド・ファミリー』の制作に携わったらしい。(プロデューサーだった、みたい)

実はこれは『レッド・ファミリー』の監督最新作だと思って、期待して見始めたのだが、後でそうではないと、気付いた。あの作品は、傑作だった。始まりはなんだかコメディタッチなのに、だんだん怖くなるし、でも、温かい気分にもなる不思議な映画だったが、今回の本作は徹頭徹尾シリアス・タッチ。こちらのほうがキム・ギドクらしいのだが、作品としては今回はなんだか空回りしている。

 

中国から大事にウナギを抱えてやってきた男が主人公だ。密入国して、命からがら韓国に来た。そこまでして韓国に来たのは、自分が養殖しているウナギの水銀汚染の疑いを晴らそうとして、である。なんとかしてそんな汚名を晴らすため、再検査を求めるのだが、相手にされない。そんな彼に研究所の女が興味を持ち、助ける。だが、ウナギは確かに汚染されている。やがて、そんな水銀汚染のウナギを安く輸入して儲けている業者を見つけるのだが。

 

お話自体は単純だし、話はあまり広がらない。ほとんどセリフもない(中国人である彼は韓国語が話せないから)映画で、それはそれでキム・ギドクの得意技なのだが、自分の監督した作品のような緊張感はここにはない。それは演出が悪いのか、というと、それだけではない。台本自体もあまり面白くない。社会問題を扱うのだが、告発ではなく、だからと言って、ラブ・ストーリー(それはないわぁ、と思うけど)でもなく、なんとも中途半端な作品なのだ。

 

自分が育てているウナギが工場排水に汚染されていたことを知る。まじめに生きているのに、それが不条理な出来事から、立ちいかなくなる。これからどう生きたらいいのか、わからなくなる。言葉も通じない国で、自分の正義だけを信じて、やってきたにもかかわらず、戻ることも進むことも出来ず、ただ茫洋とする。この何ともいい難い孤独と不安は、わからないでもないのだが、それだけでは映画としては納得いかない。

 

 


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