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映画・演劇のレビュー

西加奈子『うつくしい人』

2009-04-24 22:27:27 | その他
 瀬戸内海の美しいリゾートホテルを舞台にした3人の男女の物語は不思議な色合いのドラマを作る。お互いがどう出逢い、どう絡み合っていくか、ではなく、3人はただ別々の人間で、ひとりひとりには秘められたドラマがある。それが交錯して、新たなお話が生まれるというのが、普通の小説のパターンだろうが、この小説はその轍を踏まない。お互いは平行線をたどり、分かれていく。他人に対して簡単に心を開くことはない。たった5日間の旅の時間だ。

 そこで必要以上のドラマはない。ほんの少し触れ合うことはあってもそれ以上踏み込まない。最後の夜、バーテンダーが見たという写真を探して、朝まで図書館で過ごすが、本の間に挟まれていたはずのその写真は見つからない。だいたいその写真に特別な意味すらないし。彼らがそれを探すのはただ口実でしかない。退屈を紛らすための。だが、いつの間にかその行為は尊いものとなる。

 主人公の女性の物語がベースになり、そこに2人が絡む。彼女がこの島にひとりやってくるところから始まる。他人の目を気にして、おどおどする。そんな彼女が、ホテルの中年バーテンダーと、彼女と同じ日にここに遣ってきた丁寧な日本語を話すドイツ人の青年に関わる。

 美しい姉のことが気になる妹。彼女は引きこもりになった姉の呪縛から逃れられない。何かを見失ってしまって、すべてをなくした中年男。母親しか見えなかった青年。人は失ってしまったものに囚われたまま生きていくことは出来ない。何かを諦めて、何かを乗り越えていく。そうすることで生きていける。

 これは死んだように生きる3人が、たぶん再生の第一歩を踏み出すまでの物語だ。単純な癒しのドラマなんかではない。

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