これは凄い。久々のいしいしんじ作品なのだが、こんな話を思いつくって、もうそれだけで感動する。さらにはこのネタでこんなまさかの展開を綴るなんて、想像も出来ない。やはりいしいしんじは天才だ。
これは人のする息が見えてしまう女の子、夏実の話だ。息が見えるからって、そこからどんな風に話を展開することが出来る? こんな展開思いつきもしなかった。息が見えるから息をしていない40過ぎのおじさんと出会い声をかけてしまう。あなたは死んでいるんですか? 彼は息を調整することができる名人だ。彼女は彼に弟子入りする。
コロナ禍の2020年,春から話は本格的に始まる。前年の冬12月、ランニング中に飛んできた金属バッドが頭を直撃した。それから彼女は人の放つ息が見えるようになった。今は店にはマスクがない。そんな時代。コロナがなんなのか、わからないまま、緊急事態宣言がなされる。学校は閉鎖されて家から出ない日々が始まる。だけど彼女は黙々とランニングする。袋田さん(名人)が消える。どこかに行ったみたいだ。祖母がコロナに感染し隔離される。
2話『桃色吐息』はコロナウィルスが見えてしまうことで感染から野球少年たちを救う話に。こうくるか、と思う。そして最終章である『息してますえ』(この小説は京都が舞台です!)に続く。
なんと2021年。いきなり翌年になり夏実は予備校生になっている。しかも美大を目指している。1年浪人して2022年に大学生になる。『ブルーピリオド』みたく東京藝大目指すのではなく、京都だから京都市立芸大だろうか。叔母さんが久しぶりにやって来て一緒に過ごす。3話はなんだがテンションが低い。ドラマもない日常のスケッチだ。何が描かれるのかと待っていたら何もなく終わる。いや、父が陽性になったから隔離される。
地球外生物が(宇宙外生物と夏実は言う)やって来て、目に見えないものに翻弄される。だけど平穏な日々は戻ってくる。母親がいない夏実の祖母も父もコロナに罹る。妖怪写真を撮るために京都に戻ってきた叔母とふたり。妖怪なんていない。だけどそんな雰囲気を醸し出す光景はそここのにあるのが京都だ。ここで今を息をして,生きている。大文字焼きを見守りながら、八角九重塔の幻を見るラストが美しい。