二部作になっている。2冊同時に出版された。から(伽羅)さんの家を舞台にして、そこで暮らすことになったまひろとその家の主人であるからさんのお話。まず『まひろの章』から読む。(次に『伽羅の章』に続く)
18歳。高校を卒業したばかりのまひろは義理の祖母であるからさんの家で暮らすことになる。家事手伝いと作家であるからさんのアシスタントのようなことをする。大きな家には3人の同居人がいる。シェアハウスのような感じで暮らしている。ひとりは50代の女性で、後ふたりは20代の男性。
いつもの小路幸也の小説とは少しタッチが違う気がする。もちろんいつものように読みやすいし、温かい。いい人ばかりが出てきて、心温まる。だけど、今回はなんだか少しだけ重い。登場する人たちの境遇が重いから、内容まで重く感じるのか。
「生きることは働くこと。」この作品の核心部を成す言葉が出てくるのは始まって200ページを越えたところ。まひろと編集者の水島、からさんの対話の中で語られる。作家として活躍するからさんの言葉だ。人が動くと書いて働くと読む。わかりやすい理屈だ。小路幸也は膨大な量の小説を書いている。そのほとんどが心温まるエンタメ作品である。読んでいたら元気になる人生の応援歌。今回もそこは変わらない。だけど、いつもは語らない本音をさりげなく吐露する。老境に達した作家に若い世代に向けて語らせる。からさんとまひろというふたりを配して、自分の想いを語るのだ。
さらに終盤に入ると家族の話になる。わかりやすい展開だ。これはもともとは他人同士の同居を描く作品である。そういう入り口から最後は一気に血のつながる肉親のことに。小路幸也は代表作『東京バンドワゴン』でも家族を核に据えて、世界を疑似家族へと広げている。この先どこまでも限界まで広げていく所存だ。(たぶん)そんな彼からの所信証明が今回の小説かもしれない。
実の母親との対面が描かれる。クライマックスだ。淡々と接して別れる。母の葬儀の時、初めてまひろは祖父母とも会う。血のつながった肉親たちだ。ふたりともこれからはお付き合いをする。そうしてまひろの世界は広がっていく。
これは小路幸也の最高傑作であろう。彼がこれまでかいてきたことの総決算である。もちろん、それは渾身の力作というわけではない。いつもの小路幸也だ。変わらない彼のスタイルを踏襲して、彼らしい世界を綴る。