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映画・演劇のレビュー

『それでも夜は明ける』

2015-04-02 20:59:39 | 映画

スティーブ・マックイーン監督の新作なのだが、こういう大作映画を彼が手掛けて、こんなにも普通に感動的な作品に仕立てた。映画はよかった、とは思うけど、正直言うと、あまりにありきたり(想像可能な苦難のドラマ)で、なぜ、今こういう映画が作られたのか、なんかよくわからない。

ウイキペディアには「原作は1853年発表の、1841年にワシントンD.C.で誘拐され奴隷として売られた自由黒人ソロモン・ノーサップによる奴隷体験記『Twelve Years a Slave(12年間、奴隷として)』である。彼は解放されるまで12年間ルイジアナ州のプランテーションで働いていた。」とある。実話の映画化だ。こういうことがかつてあった、ということは確かに驚く。

しかし、こういうヒューマンドキュメントは多々ある、と思ったけど、黒人奴隷を主人公にした映画は興行的にしんどいから、あまり作られないとは知らなかった。この映画の製作がどれだけ困難なことなのかは想像もしなかった。

自由黒人であった彼が拉致されて、12年間も奴隷として酷使された苦難の日々は衝撃的で、それを描くことは、意味があるはずだ、とは、思うけど、黒人奴隷制度全体についてこの映画が描くわけではない。彼は奴隷ではないのに、奴隷として扱われて地獄の日々を生きたかもしれないけど、彼のように助けられる可能性がある自由黒人ではない黒人奴隷のほうが圧倒的多数派で、彼らの問題はどうなる、と思ってしまう。それはまた、別問題として分けて考えろ、と言われたなら、そうかなぁ、とも思うけど、この映画の中で、そういう人たちがたくさん登場する以上スルーはできないのだ。

映画は確かによく出来ているし、感動的なのだが、なんか割り切れないのは、そこだ。ブラット・ピット演じる男が彼を助けることになったのだが、ブラピ演じる男自身が、ただの正義漢ではなく、割り切れないもどかしさを体現していて、この映画がとらえるものの、その闇の大きさを感じる。それはベネディクト・カンバーバッジ演じる地主にも感じた。彼は確かにいい人なのだが、奴隷制度を容認して、その制度の中で、奴隷の黒人を人間的に扱おうとしているにすぎない。その歯切れの悪さが心に残る。彼らハリウッドのトップスターがこの地味な映画の端々を彩り、ただの顔見せではなく、当時の白人社会の中での、どうしようもなさを体現した。その事実をどう受け止めるか。これをただのハリウッド大作映画として流すには忍びない。アカデミー賞を受賞したアメリカが認めた作品で、素直に凄い映画だ、と絶賛したい気もする。だが、いろんなことを踏まえても、感動の大作映画という域にとどまる。


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