これだけのスケールのお話を400ページほどの枚数で収めるのか、と驚く。実は読み始めた戸惑った。宇佐美まことだから手にしたのだけれど、お話がなんか中国の古代の話で、あまり興味がないなと思ったからだ。読み始めたときは途中でやめようかと何度か思ったけど、難しいところを流してお話だけをちゃんと追いかけていくと必ずしもまどろっこしくはないし、難しいわけではないと気付いた。だいたい人の名前や地名の漢字が読めない(ルビはあるけど、何度も見返すのが面倒)し、中国の古代の風習や習慣、土地勘もないし関係性も複雑で、だからといってそれを丁寧に理解しながら読むと、なかなか話が先に進まない。だから最初は少しイライラしてしまったのだ。でも、そこを気にせず読み飛ばすと、テンポがよくなり、読みやすくなった。読むのも大変だが,作者はこれを書くためにはものすごい取材と知識が必要だったのではないか。改めて小説家って凄いなと感心する。お話は漢の時代からスタートする。そこから唐、明を経て日中戦争下の上海へ、最終章では現代の日本へとつながる壮大なドラマ。
時代を超えて生き続ける「竜舌」をめぐる5つのお話。肉体が死んだあとも、生き続ける男と彼の部下で永遠の命を授かり、彼の野望の実現を助ける男。彼ら二人の想いを阻止するために自分に与えられたその時代で、その運命と戦い生き抜く人々の群像劇。前半3話が古代中国の歴史物語で、後半2話が戦時下から現代へのドラマという構成。しかも最終的には中国統一ではなく世界征服の話になり、その方法が武力によるものから、いきなり未知のウィルスによるパンデミックというまさに今のコロナ禍を象徴するようなお話につながる。
なんとも暴力的で大胆なその破天荒な展開には驚く。しかもいずれのお話も戦乱の中でのラブストーリーになっている。永遠の命や、どんなものでも治癒させる解毒薬、未知の病原菌による感染。空想的な設定はリアルな現状ともリンクしていく。最後はそれなりにうまくまとめてあるが、この壮大なスケールのお話の結末としては少し物足りないのは残念。