久々の佐藤正午の映画化である。原作は1000ページに及ぶ長編らしい。それを2時間にまとめるのは至難の業だろう。だからか、映画はすごいスピードで話が展開していく。あれよあれよという間にあちらこちらへと話はしっちゃかめっちゃかで、振り落とされそうだ。何がどうしてどうなっているのやら、ちゃんと見ているはずなのに、わからない。きっと最後まで見ていたらすべてがうまく収まるところにおさまってどんどん深まる謎だって解けてすっきりするのだろう、と我慢して見続ける。いや、つまらないわけではないのだ。ガマンじゃなくて楽しみながらドキドキして見ていくことになる。でも、なんだかよくわからない、それだけ。よくわからないけど、いろんな糸が絡み合ってこんがらがって、どうなるのやら、わからない。
見ているぶんには、退屈しないし、それどころか、ちゃんと面白いのだから、あとは後半で、絡まっている糸(意図)が、どうなるかなのだけど、ちょっとこれはないわぁ、という終わり方で、小説としては大丈夫なのだろうが、映画はこういう終わらせ方では納得しない。煙に巻かれたというか、騙された気分だ。この男に騙されるな、とかいう宣伝コピーだったような気がするけど、これは詐欺じゃないか、と思うけど。
3人家族失踪事件と偽札事件がどういうふうに絡んでくるのか、ドキドキしたのに、それはないでしょ、と思う。思わせぶり満載で、それがちゃんとした帰着点にたどり着くわけではない。こんないいかげんな終わり方でもいいのか。全然ちゃんとつながらない。いや、これはこれでつながっているけど、なんだかなぁ、という感じだ。見事収束する、というパターンではないから、すっきりしない。まぁ、現実はこんなもんです、と言われたら、う~ん、って感じ。
この男の書くことはすべて現実になる、とかいうキャッチフレーズは嘘です。彼が書いている小説は、彼が体験した(しかも、現在進行形で)ことをそのまま書いているだけ。だから現実になる、のではなく、それは現実やし、というお話。この先がどうなるのかも、本人にもわからない、って。それどうよ、と思う。ラストでいろんなことの種明かしが一気に語られるけど、それは説明するところではなく、映画を見ていると自然に見えてくるべきところではないか。なんだか、ずるいな、と思った。
どうしてポンと3000万円を渡したのか、とか、3万円の偽札はどこから来たのか、誰がどんなふうにして作ったのかとか、別に必要ないのかもしれないけど、なんかいろいろもやもやする。いや、こんな単純なことでいいのか、とか。すべてが収まるべきところに収まるわけではないのが、まぁ、何がどうであれそれがちゃんと面白いと思えたならこれはこれでいいのだろうけど。なんだかなぁ、という1篇。