東京オリンピックの年まで4年連続で上演するというとんでもないプロジェクトを最初に聞いた時は「本気か!」という驚きしかなかったし、「大丈夫なのか、」と心配もした。だけど、作、演出のオカモトさん、制作のの鉾木さんを中心とするチームは見事それを成し遂げてくれた。いろんな大変を全部クリアして、自分たちの作ったとんもない芝居を大事にして、それを壮大なプロジェクトに仕立ててやり遂げた。立派だ。
5年前初めて見た時の感動は忘れない。舞台の上でこんなことが可能なのだ、と驚いた。それから3年連続で欠かさずに見た。2年目はアクアとブルーの2組の舞台を見せてもらった。毎年2プロ構成での上演である。今回も同じ。さすがに毎回2バージョンともの観劇にはならなかったが、ほんとうはそれができたらいい、と思ったほどだ。水原コーチ役は演じた5人とも見ることができたのはなんだか誇らしい。でも、もちろんこれは大人である彼女たちが主演の芝居ではない。
昨年はコロナのため上演は出来ず、今年もとんでもない状況は続いているが、こういうふうに上演が挙行されたことを心から喜びたい。今年はもう見られないかもしれないと心配していたが、今年もやります、という連絡を貰い快哉をあげた。ちゃんと東京オリンピックの延期開催に合わせる形で、企画を通して、今回の新しいメンバーを集めて、3か月に及ぶ稽古期間を経ての上演である。いずこも同じだろうけれども、感染症対策にも留意しての準備は困難を極めたはずだ。それを乗り越えた。そしてファイナルに相応しい作品に仕上がった。ほんとによかった。
この芝居は上演を重ねるたびに完成度が上がっていくというタイプの作品ではない。毎回新しいキャストを集めて一から作り上げていくから、チームごとにばらつきが生じる。今回で4回目(僕は5回目)となるが、スタッフワークはともかく、役者による完成度という意味では今までより低いかもしれない。水原コーチ役の月丘七央もなんだかぎこちない。だが、大事なところはそこではない。
同じ芝居なのに、この作品は何度見ても飽きささないのは、1回1回が同じじゃないことを意識させられるからだ。同じ台本、演出なのに、新鮮に見えるのだ。それは彼女たちがたった一度のその瞬間をその舞台で表現することをなによりも大事にしているからだろう。演出のオカモトさんは完璧を目指すのではなく、最高を目指す。ひとりひとりがそこにいて輝いている。そんな瞬間を描く。ここに描かれる物語の普遍性を信じる。それは誰もが経験する青春の1ページだからだ。10代の彼女たちがシンクロに情熱を傾け、自分の人生で一番輝く時間をそこに最大限に注ぎ込む。この芝居はそんな「きらめき」を掬い取るのだ。
シンクロだけではない。いろんなところでいろんな人たちが「金メダル」を目指して力を合わせて戦っている。結果が大事なのではない。自分の持てる全力を傾けることが大事なのだ。この芝居に挑戦したひとりひとりが厳しい練習に耐えて、完璧を目指して努力する。ここにはその姿がちゃんと描かれている。だから、まるで自分のことのように、彼女たちの姿が見た人ひとりひとりの胸を打つ。自分にもこんなキラメキがあった。あるいは、自分もこんなキラメキの時間をこれから生きようと思う。これはそんな想いを抱かせてくれる作品なのだ。