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映画・演劇のレビュー

『犬猿』

2018-03-11 22:23:34 | 映画

 

『ヒメアノ~ル』に続く吉田恵輔監督最新作。今回は久々のオリジナル台本なので期待も高まる。前作も気味の悪い映画で強烈だったが、今回もまた別の意味で強烈に気味が悪い映画だ。犬猿の仲の兄弟と姉妹を新井浩文、窪田正孝と江上敬子、筧美和子の4人が演じる。よくある「賢兄愚弟もの」のバリエーションなのだが、いろんな意味で過剰なのだ。

 

史上最低の兄貴を演じた新井浩文が凄い。こんな奴と関わり合いたくはない、と誰もが思うだろう。でも、兄だからどうしようもない。刑務所から出てきた彼にまとわりつかれて最悪の毎日を送ることになる弟が窪田正孝。でも、こいつもおとなしそうに見えて性格悪い。そんなふたりと関わる姉妹もまた、お互いが嫌い。そんな4人のお話なのだけど、こんなにもどうでもいいような話なのに、とんでもなく面白い。別段異常な話ではないはずなのに、なんかとても歪なねじれ方をしているのが吉田映画だ。吉田といえばあの『羊の木』の吉田大八も異常だけど、恵輔監督ほどではない。デビュー作『机の中身』(これが『ヒメアノ~ル』と同じパターンで前半と後半別々の映画のような展開を見せる)から一貫している。

 

兄の暴走を見て、自分の生活が脅かされるという危険を感じながらも、どうしようもない。恐怖から逃れられない。兄はただのトラブルメイカーに留まらず、最悪に向かって突き進むことになる。血のつながりからは逃れられないのだが、兄が 成功した後の、部分はまた上手い。吉田監督の人間観察はとんでもなくリアルで怖い。人間の中にあるどうしようもないものが形を変えて現れてくる。『ヒメアノ~ル』の暴走より怖い。

 

軽いタッチで描かれるけど、そうじゃなくては見てられない。この映画の恐さは暴力的な兄とか、心を抑え続ける姉とかいうわかりやすい図式に収まりきることはない。過剰が異常に姿を変える一瞬を、スレスレで日常の枠内にとどめる。表面的には破滅には至らない危うさ。それがなんとも凄いのだ。

 


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