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映画・演劇のレビュー

KUTOー10『財団法人親父倶楽部』

2018-03-14 20:23:47 | 演劇

後藤ひろひと作、演出作品がウイングフィールドで上演されるなんて、初めてのことではないか。遊気舎時代だってウイングですることはなかったはずだし、ウイングに彼が立つなんてことも記憶にはない。今回工藤俊作の招聘で、彼がここでどんな芝居を見せてくれるのか、とても楽しみにしていた。しかも、主役は工藤さんはもちろんなのだが、あの羽曳野の伊藤を呼んできたのだ。さらには保とのゴールデントライアングルである。久保田浩が羽曳野の伊藤として舞台に立つ。「羽曳野の伊藤」は、昔、後藤さんが遊気舎にいた頃の定番キャラクターだった。飛び道具として久保田さんに演じさせた。懐かしい。そんな羽曳野の伊藤を中心にして、3人の親父たちの死への冒険が描かれる。後藤さんは遠慮なく、センターに久保田浩を配置する。なんと主宰である工藤さんは脇に回る、というとんでもない展開だ。もちろん、基本的には3人のドラマを対等に展開させるのだが、あきらかに色物である久保田ワールド全開である。そして、それでいい、というハチャメチャさを工藤さんも了解し、後藤ひろひとは好き放題の展開を見せる。


もちろん、いろんなことは承知の上だ。どこにどう転がるのか、予測不可能な芝居である。しかも、とんでもなくわがままなネタが頻出する。どこの誰が生瀬勝久が槍魔栗 三助だということを知っているか。そんな人は一体何人いるのだろうか。でも、彼はそんなこんなもまるでおかまいなしだ。佐々木蔵之介とか、昔の仲間の名前を出して、わかる人にだけのサービスをする。もちろん、わからない人は無視して、突き進んでいく。お話の方も、丹波哲郎ではないが、死んだらどうなるのか、を教えてくれるのか、と思わせといて、死んだ気で生きる、というタイトルにある通りの展開で勝負する。


もうすぐ死ぬ3人の親父たちは、死神みたいに登場する後藤ひろひとにサポートされて、もうすぐ死ぬのだけど、死ぬまでにしたいことをかなえてあげる、と言われる。でも、突然そんなことを言われても、やり残したことなんかなかなか思いつかない。妻を喜ばしたい、と願う工藤の話。役者をしていたころに戻って、もう一度羽曳野の伊藤を演じる久保田の話。それなりの規模の会社の社長をしている保の話。3つの話を交錯させながら、死ぬということをワクワクする冒険として描こうとする。

3人がそれぞれ自分の夢を実現させる。それぞれのお話は、ありきたりな展開はしない。死神の助けられたはずなのに、気づくと彼らは自分の力で夢を実現させている。「死んだと思って生きてみる」というありきたりなメッセージが、なんだかとても尊いものとして伝わってくる。ラストではこれも気づけば、工藤俊作がちゃんとお話のセンターに立っている。


90分ほどの小さな芝居である。この劇場にふさわしい芝居を、KUTO-10らしい芝居をちゃんと後藤さんは作り上げる。肩の力を抜いたハートウォーミングだ、見終えたとき、少し幸せな気分にさせられる。


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