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映画・演劇のレビュー

『僕等がいた』

2012-04-05 08:42:21 | 映画
 春休みの映画館は10代の女の子たちでいっぱいだった。これは今を生きる子供たちのための恋愛映画である。たぶん。大ヒットマンガの映画化という黄金のパターンなのだが、安易な映画ではない。『ソラニン』『管制塔』の三木孝浩監督だから、当然の話だ。お話自身は少女漫画でしかないような内容だが、それをバカにするのではなく、誠実に映画化しようとしている。高校2年生の男女の恋愛をテーマにして、その周辺のことは一切排除して、ただ彼らの恋愛感情のみを描きだす。2時間の映画としてはあまりに正攻法すぎて、単調になる。だが、余計なものは排除してまっすぐに彼らの想いだけに焦点を合わす。

 友情とか勉強とか、クラブ活動とか、彼らの毎日には恋愛以外にもいろいろなことがあるはずなのだが、そういうものには触れない。2人が出逢い、恋をして、お互いの想いをぶつけ合う。過去のつらい恋を乗り越え、今ある2人の時間を大切にして、未来に向けて生きようとする。そんな2人の姿を追う。従来の青春映画なら、そこまでピンポイントにはしない。だが、この映画は挟雑物はない。もちろん過去の恋人(死んでしまった)とか、その妹(彼のことが好き)とか、彼女に想いを寄せる男の子とか、よくあるパターンはちゃんと登場するし、彼の母親のこととか、も影響する。だが、それだけだ。2人を見守る先生とか、恋愛関係以外の友人関係や、いらないものはない。なんと、主人公である彼女の側の家庭さえも、描かれない。

 春から夏へ、そして、秋から冬へと、季節は移ろいゆく。北海道、釧路の自然をバックにして、美しい四季の風景のなかで、学園生活がつづられていく。合唱コンクール、夏祭り、文化祭、といった定番行事のなかでの2人のドラマは誰もが経験することだろう。だが、そこにこんなふうな甘く切ない恋愛はなかなかない。これは夢のお話だ。でも、多かれ少なかれ誰もが抱く感情をベースにしているから、感情移入しやすいし、映画の世界にどっぷりはまると、疑似体験ができて、きっと楽しいはずだ。

 いつの時代にも、こういう青春映画のバイブルはある。僕が10代の頃、70年代の終わりには相米慎二監督の『跳んだカップル』があった。この映画を見ながら、僕はあの映画を思いだしていた。どうしてあの頃あんなにも、あの映画に嵌ったのか。もちろん相米慎二という稀有な存在の監督との出会いもあろう。だが、それだけではない。あのノーテンキに見える青春恋愛映画のなかにある2人の男女の傷ましいドラマが、10代の僕の心に突き刺さったからだ。

 今、この『僕等がいた』を見る「50代の僕」はそこまで、この映画に嵌らない。だが、「あの頃の僕」が今これを見たなら、もしかしたらこれこそ、僕等の時代の映画だ、と感じたかもじれない。これはかなり微妙な問題である。というのは、この映画が時代が生んだ1本であるか、否か、ということを孕んでいるからだ。なんでもない青春映画の1本でしかなかったはずの『跳んだカップル』が歴史に残る1作になったのは、あの映画の普遍性と、相米慎二という日本を代表する作家のデビューというエポックが重なったからだ。同じように日本映画史に残る傑作『のようなもの』が森田芳光の劇場用デビュー作であるという事実を踏まえて誰もの記憶に刻まれたこととも通じる。

 もちろん、この映画がその2作品と比肩するとは、思わない。だが、あの気分に似たものがここにはあるのではないか、とかすかに感じたことは事実だ。三木孝浩監督は3作目だが、一貫している。中心にある2人から目をそらさない。ただ一心に見つめる。同じ生田斗真を主人公にしてこれも同じように長い歳月の中で変わらない想いを描いた恋愛映画『ハナミズキ』とこれを較べると、あきらかに違うのは対象への距離の取り方だ。たとえ同じような話であろうとも、出来あがったものはまるで似ていない。あれはあれで悪くはない映画だった。あそこで2時間でみせたものを、この映画は4時間にする。その時、この1作目は、高校時代の1年間だけにスポットを当てて1本の映画にした。そのアプローチが結果的にこの映画を『跳んだカップル』に近付ける。そのおかげで、この作品は今と言う時代の青春映画のバイブルとなる。

 残念ながら、この後、すぐに、続編が連続して公開される。2本セットにすると、これは『ハナミズキ』そっくりなルックスを持つが、この1本で完結させると、これは『跳んだカップル』に似る。僕はこの映画をまず1本独立した作品として理解したいし、評価する。2人の別れにシーンの後、2人は「その後、会うことはなかった」というナレーションの衝撃を大切にしよう。

 まぁ、2部作として、最初から作られたものを、強引に1本の作品として評価するのはわがままだが、しかたない。

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