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映画・演劇のレビュー

コンブリ団『ムイカ 再び』

2012-04-02 21:52:52 | 演劇
 第17回OMS戯曲賞を受賞した『ムイカ』の再演である。今回は初めて見たときのような驚きはない。当たり前のことだ。2度目なのだから、どんな方法をもって何を語るのかもちゃんとわかっている。

 でも、前回は、そうではなかった。ムイカが六日で、8月6日であることすら、気付かずに見始めたから、衝撃的だった。はしぐちさんが話の枕に故郷の広島の話を持ち出してきただけで、どこから本題に入るのか、なんて油断してみていたのだから、あの日の僕は本当にのんびりさんだ。だからこそ、広島に原爆が落ちた日の話で、生き残った女性のその後を描く本題に突入したときの驚きはなかった。完全にこのお話に取り込まれた。

 だが、今回はそういうことはない。もう、どんなお話がこの先展開していくのかを充分に知っているから、落ち着いて見られる。今回もう一度、この作品を見て、改めてその語り口の滑らかさに舌を巻く。この作品はとてもよく出来ている。

 今回、主人公であるおばあちゃんを演じた船戸香里さんがとてもチャーミングだ。彼女の表情を見ているだけで、楽しい。3人の女たちとのやりとりがいい。ストーリーテラーであるはしぐちさんのたたずまいも素敵だ。再演であることのメリットは、完璧に作り上げることを可能にするところにある。特にこの作品は、磨き上げるほどに輝く。

 あの原爆に遭遇しながらも、死ぬことなく生き残り、その後の人生を全うし、最後まで生き死んでいく一人の老婆の生き様が、息子夫婦、孫たちの彼女への視線から描かれていく。この作品は今現在の時間を描くのに、そこに登場するひょうひょうとした船戸さんの少女のような姿を追いながら、結果的に僕たちは彼女の魂の旅を追体験することになる。


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