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映画・演劇のレビュー

『人生に乾杯!』  7月末から8月の初めで見た映画、読んだ小説。

2010-08-08 08:25:15 | 映画
 この2週間でたまった映画や小説のことを書きたい。でも、あまりに膨大すぎて、どこから手をつけたならいいのだか、想像もつかない。それに芝居だって先週分を書いていない。昨日、合宿から帰ってきた。だから、この1週間は何もしていない。まぁ僕のプライベートなんか、どうでもよいことなのだが、あまりに時間が経つと、いくらなんでも忘れてしまうので、簡単に要点だけでもメモしておこうと思う。また、時間が出来たなら、ゆっくり書く。

 ハンガリー映画であるガーホル・ロホニ監督の『人生に乾杯!』がとても面白かったし、すばらしかった。年金暮らしをしているけど、生活苦に陥っている老夫婦が、生きていくために、なんと強盗になるというお話。コメディーではなく、シリアスタッチなのがいい。しかし、なんとなく軽やかで重くはならない。この話を重く作ってしまったなら、もともと救いがない話だけに、見ていられなくなる。かと言ってコミカルに処理すると、ただの嘘になる。微妙な味付けが素晴らしい。彼ら夫婦を追いつめる警察側が、かなり間抜けで、ここは嘘っぽいけど、そのおかげで危ういバランスを保っている。しかも、刑事のほうもカップルで、彼らと老夫婦が合わせ鏡のようになっているのがいい。ラストで、ファンタジー処理がなされるのは、しかたないだろう。

 忙しいくせに、どうでもいいような映画をたくさん見ている。香港のチン・シュウタン監督が、スティーブン・セガールのアクション映画を請け負ったアメリカ映画『沈黙の聖域』なんかも見た。バカである。でも、一度見ておきたかった。先日見たリーアム・ニーソンの『96時間』と同じようなよくある話だ。旅行先で誘拐された最愛の娘を取り戻すため、単身悪の巨大組織に立ち向かうセガールおやじのバカアクション。タイを舞台にして、おやじが大暴れ。でも、おやじはアクション映画なのに、まるで動かない。それって凄い。さすがのチン・シュウタンでも、セガールおやじとの仕事は大変だったようだ。

 浅野忠信、中村獅童、須藤元気たち6人による短編集『R246 STORY』は予想通りつまらなかった。でも、そんな中で、唯一、ユースケ・サンタマリアが監督した『弁当夫婦』は、なかなかよかった。これがあって救われた。永作博美の妻がいい。彼女は、毎日朝早くに起きて2人で食べるお弁当を作る。食べきれないほどのたくさんの料理を用意する。たくさんの食材を使って、入念に作る。朝早くから黙々と作業する姿が、丁寧に、静かに、描かれる。それを大きなかばんに詰め込んで、職場に持って行く。ビジネススーツに身を包み、バリバリにオフィスで働き、テキパキ仕事をこなし、かっこいい。そして、お昼になると、オフィス街の公園で、夫と待ち合わせてお弁当を食べる。そんな暮らしの繰り返しだけが描かれていく映画だ。心に沁みいる逸品。

 日中合同による中編映画『アンコールの女』もすばらしかった。これは北京で暮らす日本人女性と、東京で暮らす中国人女性の2人の生活のスケッチだ。とある休日の2人の姿を交互に見せていき、淡々と追いかけていくだけ。なんにも特別な話はないのだが、これがまたいい。たった45分の映画である。事件はない。ただ街を歩くだけ。

 是枝裕和監督が歌手のcoccoのツアーを追いかけたドキュメンタリー映画『大丈夫なように』もよかった。ただのコンサートライブではない。彼女の旅を通して、彼女自身の生き方に迫るノンフィクション。

 オリビィエ・アサイアス監督がいつものようにマギー・チャンを主役に据えた『クリーン』も小粒ながら悪くはなかった。薬物依存症の女がすべてを失ったところから、もう一度自分を取り戻そうとする心の軌跡を描く。

 ホン・サンスの期待の新作『アバンチュールはパリで』には、違和感を覚えた。大好きだった彼の映画なのに、なんか乗りきれない。主人公の男が好きになれないからだろう。ソウルに妻を残して、パリにやってきた画家が、いろんな女たちの手を出すけど、最後は妻のもとに戻るなんていう調子のいい話。麻薬所持の疑いで韓国に戻れなくなった男が、パリ在住の韓国人女性たちと関わりを持つという設定はどうでもいい。ホン・サンスのエスプリの効いた映画が見たかった。こんな話なのに、なぜか目が離せない、というのを期待した。なのに、今回はずっと乗れないままだった。もどかしい。

 ハリウッドが手塚治虫の『鉄腕アトム』をアニメーションで映画化した『ATOM』も見た。昨年の実写版『ドラゴンボール』にはめまいがしたが、今回はよく出来ている。設定のみを貰ったオリジナルストーリーだが、しっかり考えられてある。

 いかにもフランス映画、という感じの『幸せはシャンソニア劇場から』はよくあるパターンの映画で、可もなく不可もない。「ちょっといい話」に感動したかったのに、平凡な出来でがっかりする。

 小説は中学生のいじめを描く川上未映子『ヘヴン』が、強烈で、よかった。原田マハの『星がひとつ欲しいとの祈り』は20代から50代までの女たちを描く7つの短編集。そこそこおもしろいが、それだけ。姫野カオルコが介護をテーマにした連作『もう私のことはわからないのだけれども』は、この重い話を口当たりよく描いていて感心した。

 

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