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映画・演劇のレビュー

『アンノウン』

2011-04-28 21:56:51 | 映画
 こういうアクション映画がめっきり減っている。セールスポイントがないから、公開してもヒットが見込めないからだろう。この手の映画は直接DVD公開され、誰にも顧みられることなく消えていく運命になる場合が多々あるのだろう。主役がリーアム・ニーソンというところもちょいと渋すぎて危険だったが、彼は昨年『96時間』でなかなかいいところを見せて、映画自身もそれなりにヒットさせたから、今回もなんとか劇場公開されることになったのだろう。よかった。

 ジョエル・シルバー製作なので、ドンパチばかりのド派手なアクションかと、思ったのだが、案に相違してかなり渋めの映画だ。マット・デイモンの『ボーン』シリーズのような感じ。交通事故に遭いそのショックで、事故の前後が記憶喪失になった男が、自分の妻や、仕事、その存在自身すら失い、あげくは名前もない、この世に存在しない男となる。自分が何ものなのか、本来の自己を証明する手段も方法もなくし、途方に暮れる。そんな彼が、自分を取り戻すための戦いを始める姿が描かれる。

 前半はかなり面白い。どうして、こんなことになったのか、想像もつかないまま、どんどん動いていき、でも、その結果追いつめられていく様がテンポよく描かれるからだ。だが、早々にネタが割れてしまい、後半はサスペンスの要素が殺がれるのが辛い。もっとドキドキさせて欲しかった。アクションをエスカレートさせるよりも、お話の妙で引っ張るのが正統的だと思うのだが。

 言葉も通じない異国であるベルリンの街にたったひとり身寄りもなく放り出されたアメリカ人が、途方に暮れながらも、さまよい歩くという図式は面白いと思うのだ。そこをもっと強調して全体を構成したならよかったと思うのだが、これはアメリカの娯楽活劇映画なので、あまりアート映画のようなマネは出来なかったのだろう。しかたあるまい。

 だが、今風の頭の悪いハリウッド・アクションではなく、古き良き時代のアメリカ映画としての矜持を持ち、バランスのいい活劇として、もう少しバランスのいい映画に仕上がっていたなら、密かな拾い物として、マニアから喜ばれたのかも知れない。惜しい。

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