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映画・演劇のレビュー

東野圭吾『真夏の方程式』

2011-09-24 22:32:44 | その他
 このタイプの小説は基本的には読まない。なぜなら時間の無駄だからだ。つまらないわけではない。東野圭吾はストーリーテラーだから、読みやすいし、どんどん話には引き込まれる。時間つぶしには最適かも知れない。だが、つぶすような時間はない。これでも毎日忙しいし、読書は電車の行き帰りしかしないから、そんな貴重な時間を無駄にするのは、嫌だ。ということで、エンタメ小説は読まないということなのだ。

 それでも、東野圭吾はもれなく読まないというわけではない。このガリレオシリーズがちょっと苦手なのだ。というか、こういうタイプのミステリを受け付けないのだ。何度も言うがつまらないからではない。400ページ以上の長編だが、一気に読めたし、読んでいると加速がつく。まぁ、それは悪いけど、この小説にあまり中身がないから読むのも早くなる、ということだ。それでも『容疑者Xの献身』はかなり面白かった。あのレベルを常時維持できるのなら、コンスタンスに読むのだが、そうはいかない。今回もまた、TVの2時間ドラマでも見ているような(土曜ワイド劇場みたいなやつだ。とはいえ、そんなものは実際にはもう何十年も見たことがない癖に)薄味で、安っぽい話だった。

 全体が少年のひと夏の経験としてすべてが収まればいいのだが、残念ながらそうはならない。シリーズものの常として定番の安易な展開をする。それでなくては成立しないのはわかるが、そこからはみ出るものがなくては小説はただのルーティンワークとなる。しかも、話の展開が単純すぎた。

 もうひとりの主人公である14歳の殺人者である女性がその後の人生をどう生きたのか、そこにもっときちんとした掘り下げがあってもいい。彼女と少年とのドラマが(2人は叔母さん、甥という関係だ)作品全体の柱であってもよかったはずだ。事件を解決するという狂言回しとしての役割だけを湯川先生に与える、ということはできなかったのだろうか。全体のバランスが悪い。

 この手のドラマは謎解きよりも、先にも書いたのだが、犯人の心情をきちんと掘り下げることが何よりも大事だ。とくに事件の核心からは一気にそこに迫る必要がある。なのに、この程度ではがっかりである。少年の話なんか、終盤では置いてけぼりにされるし、事件の概要が明らかにされても、その先がこれではどうしようもない。一応少年のフォローは最後にされるし、その直前にかつての殺人事件の犯人だった女性のこともちゃんと決着はつくのだが、それだけでは納得がいかない。

 導入部分の海底金属鉱物資源機構による事業説明会の部分で提示される資源獲得のための海の乱開発問題。環境保護団体とのやりとり。さびれゆく地方の観光地の現実や、きれいな海を活かしきることの困難。そういう部分も、もっと前面に出てよかったのではないか。でも、この小説にとって、それらのことってただの導入でしかないのかもしれない。それ以上でも以下でもない。これではいろんな意味でつまらない。

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