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映画・演劇のレビュー

『オン・ザ・ハイウェイ その夜86分』

2016-03-24 22:14:48 | 映画

 

『ハイ・ヌーン』(『真昼の決闘』ね)が編み出した上映時間と映画内の時間が一致する、というパターン。だが、これはそれだけではない。主人公は車から出ない。登場人物は彼ひとりだけ。しかも、運転しながら、ずっと電話してるだけ。夜の8時半くらいから10時まで。自宅に戻るはずだったのに、愛人が出産(まだ予定日まで2カ月あるのに、破水した!)のために入院した病院のあるロンドンに向けて走る。

 

いきなり、すべてを失うことになる。仕事も、家族も。だが、その先には光明が見える。そんな映画だ。凄い。トム・ハーディ演じる男は実に嫌なやつだ。仕事もできるし、誰に対しても優しい。妻や子供たちにも愛されている。一夜限りの関係を持った女が妊娠したけど、責任を取ろうとする。自分ならすべてうまくやれると、思う。そんなわけないじゃないか。万能な人間なんかいない。誰も傷付けず、うまく立ち回るなんてそんな都合のいい話があるはずもない。嫌なやつ、というのは、彼のそんなところゆえだ。

 

単調な映画で、ずっと車の中で話している姿を撮る。それだけ。でも、刻々と状況が変わっていく。だんだん追いつめられていくサスペンス。でも、それを綱渡りで乗り越えていく。俺なら出来る、という鼻もちならない姿に距離感を抱く。絶対に酷い目に合う、はずだ、と思う。だが、先は読めない。映画が86分で終わることだけはわかっている。エンドタイトルもあるから実質80分強だ。

 

あのラストには、やられた、と思った。もちろん、ここには一切書かない。そんな野暮ではないし、この映画のラストをどう受け止めるのかは人それぞれだ。ハッピーエンドとも、悲劇とも、とれる。本人の考え次第だからだ。ただ、映画を見ながら思ったのは、人間は本当に愚かだ、ということ。でも、愚かでもそれなりに必死になっていると、どこかに出口はある。

夜のハイウェイを家ではなく、病院に向けて車を走らせるという選択をした。TVの前で家族全員でサッカーの試合を見るという一家団欒を約束をしていた。そんなささいな約束を守れなくなることで、すべてを失う。でも、悔いはない。彼がそう選んだ。それは潔いのではなく、ただの自己満足だ。

 

こんな彼のせいで妻や息子たちはこんなにも苦しんだ。その事実は、今後どんなことになろうとも、忘れてはならない。それくらいの覚悟は必要だし、それがないのなら死ね。

 

 

 


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