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映画・演劇のレビュー

小路幸也『東京バンドワゴン オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ 』

2012-02-14 22:22:12 | その他
シリーズ第6弾となる。こんなにも続くなんて思いもしなかった。きっと作品は好評で、作者もこの世界が大好きで、どんどん、友だち、家族の輪を広げていくうちにこんなことになったのだろう。これだけ登場人物が増えては収拾がつかなくなるのではないか、という心配をよそにして作者は自由気ままに連作を続けていく。まだまだ先がありそうだ。

 こういう昔ながらのホームドラマが、これほど枯渇していて、にも関わらず求められている。そんな現状の中で、誰もこのジャンルには手を付けない。それはこういうお話が今の時代に於いてはリアルではないからだ。ファンタジーとして描くにも、リアルのないファンタジーなんて絵空事だから誰も見向きはしない。そんな中、さすがに小路幸也である。彼のマジックはこのありえない設定で、ありえない幸福を見事リアルに描き取る。東京の下町で、昔からの古本屋でなら可能だ、と踏んだのだ。そのアプローチは成功する。どんどん話を広げるから、収拾がつかないほどにこの古本屋を中心にした世界は広がる。でも大丈夫。

 今回も安心して読める。いつものように4話からなる1年間の話だ。スピンオフを含むから、これで第1作から5年間となるのか。主人公たちは、毎年1年ずつ年を取る。というか成長する。そんな成長の跡も追えるようになっている。もちろん成長するのは子供たちである。大人たちは5年くらいでは変わりはしない。

 どれもこれも変わり映えのしない話ばかりである。だが、それだから、いいのだ。特別な事なんかここにはいらない。いつもの日常があり、ちょっとした事件がある。そしてみんなが幸せを感じる。ただそれだけなのである。徐々に失われゆく家族の絆。誰もがそこにノスタルジーを感じる。大家族でわいわいいいながら、日々が過ぎていく。決して豊かではないけど、暖かで、幸福な我が家。今回もいずれのエピソードもおもしろい。

 山崎貴監督の『ALWAYS』もこれと同じパターンだ。だが、あれは明らかにノスタルジーでしかない。『東京バンドワゴン』の凄さは、これが一応リアルタイムの世界だという事実なのだ。現代の東京にまだ、こんな場所があること。山田洋次の『男はつらいよ』が無くなった今、この作品の希少価値は誰もが認めるところとなった。ここまでくると、小路さんにはこれをライフワークにしてもらいたい程だ。というか、作者である彼はもう充分そのつもりである。今度はどんな事件が起きるのか。今から楽しみだ。


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1 コメント

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ありえない設定、ありえない幸福、でもリアル (迪夫)
2012-04-14 21:51:51
新作の『荻窪 シェアハウス小助川』も読みましたが、

> 彼のマジックはこのありえない設定で、
> ありえない幸福を見事リアルに描き取る。

同感です。
一歩引いた目で見ているような感じ。
そうじゃないと、こんな仕上がりにはならないです。

やっぱり小路さんの性格が作風に表れてるみたい。
「賑やかなのに、熱くはない」性格との評価も。
http://www.birthday-energy.co.jp
というサイトで、小路さんの性格とかを詳しく書いてあって、
なんか興味深く読んでしまいました。

淡々とした作品が多い気がするんですけど、
また読んじゃうんですよね。好きなので・・・。
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