11月に公開される新海誠待望の最新作の原作小説だ。彼は映画を作る上でまず映画の制作と並行して、それを小説として書く。ここ数冊は確か映画より小説のほうが先に出版されている。今回もそうだ。小説を先に読まれても大丈夫という自信の表れなのか。宣伝にもなるしね。まぁ、宣伝なんかしなくても今では彼の映画は大ヒットが約束されているけど。ということで今回も前回と同じように先に本を読んだのだが・・・
彼の最高傑作『言の葉の庭』は40分ほどの作品だ。でも、小説は400ページに迫る大長編である。同じ話なのに、まるで違う作品になっている。でも、それでもそれは同じ『言の葉の庭』である。いつだってそうだ。『君の名は。』も後で読んだ小説はとても新鮮だったし、映画より先に読んだ『天気の子』も同様。だから、今回も気にせずまずこの本を手にした。
だが、なんということだろう、読みながらいつまでたっても心弾まない。それどころか、焦ってくる。「もう150ページ読んだのに、まるで面白くないじゃないか!」と。恐る恐る後半残りのページ数を気にしながら読み続けた。そしてようやく最後まで読んで、ため息をつく。これはいったいどういうことなのか、と。
つまらない。と言ってもいいだろう。でも、そう言い切れないのも事実だ。こんなこと初めてではないか。新海誠なのに。何がどう、ということを書くのは映画を見てからにしたい。今はただ、「何なのだろう、これは」という感想にとどめたい。意図はわかるし、今までにないスタイルを貫く。『君の名は。』でブレイクして、『天気の子』を作る。その先には何を作るのか。誰もが楽しみにしたはずだ。
ロードムービーを作った(はずだ)。そんなお話になっている。彼女が暮らす宮崎からスタートして愛媛、神戸、東京へ、さらには福島から宮城へ。高校生の女の子がたったひとり(椅子と一緒だが)でこの世界を守るために戦いながら旅をする。2011年「東日本大震災」そこを起点して始まる12年後の物語。小さなお話を作ると最大限の効果を発揮する新海作品なのに、今ではビッグバジェットを期待される。その期待を裏切らない映画を作る使命と、ほんとうに自分が作りたい映画とのはざまで、今回の作品がある。今までのボーイミーツガールの定石を崩さないけど、(いや、崩しまくっているか)前2作とはまるで違うテイストを示す。この映画がどんなふうに受け止められるのか。まだ、わからないけど、この挑戦は吉と出るか凶と出るか、五分五分だろう。とりあえず、この小説は失敗作だ。だが、ここがゴールではない。彼のゴールはあくまで映画である。期待しよう。