習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ONODA』

2021-10-11 18:40:09 | 映画

先月から公開中の『MINAMATA』に続いて今度は『ONODA』である。外国映画がこんなふうに日本人や日本で起きた問題を取り上げるなんて今までなかったことだ。しかも合作ではなく前者はアメリカ映画で今回はフランス映画だ。しかも、この映画に至っては全編日本語で、当然日本人キャストである。それだけではなく、今回の2作品はいずれも本格的な作品で、よくある「不思議の国日本」なんていう感じの困った映画にはなってない。それどころか日本映画でも難しい題材に挑み、違和感のない映画に仕上がっている。日本人スタッフの、キャストの協力のあるだろうが、見ていて外国人目線の違和感はないのだ。興味本位の作品ではない。

その上なんとこれは3時間に及ぶ大作なのである。なのに冗長な映画ではない。派手な興味本位の映画でもない。地味な丁寧な映画だ。あらゆる面で作り手の確固とした姿勢が貫かれている。

これは小野田寛郎の伝記映画ではない。その点でも画期的だ。実話をベースにしているけど、単なる事実の再現ではなく監督であるアルチュール・アラリがこの驚くべき事実を通して描くのは、誰もが経験したことのないサバイバルなのだ。戦争が終わったことを受け入れず、戦後29年間もジャングルにこもって見えない敵と戦い続けた小野田さんたちのサバイバルを描くのだ。

そして満を持して登場する想像の翼を広げていく津田寛治が演じた後半部分こそが、監督の一番描きたかったことだったのではないか。そこに至るためにはそれまでの2時間必要だった。遠藤雄弥が演じる前半部分だ。そこではドキュメンタリータッチで丁寧に戦局や彼らの置かれた状況が描かれる。この部分に説得力がなくてはすべてが絵空事になる。アラリ監督は事実をベースにしたフィクションの魅力を駆使していく。

この題材である、当然重くて暗い映画になる。彼(ら)が見た幻を、否定するのではなく、丁寧に現実を伝えていく。仲野太賀演じる青年とのやり取りを描く終盤が素晴らしい。そこで小野田は自分たちのこの30年間は何だったのかを検証することになる。事実と向き合うのはとてつもない苦痛だったはずだ。それは自分たちの人生すら否定させることになるのだから。受け入れ難い。すでに戦争は終わっていたことは薄々わかっていたはずだ。だけど、認めたくはなかった。それだけで29年間をここで生き抜いたのは、奇跡としか言いようがない。凄い精神力である。こんな空前絶後のサバイバルはない。新聞や雑誌を手にして読みながら、生き延びたふたりが、これらは何なのかを想像し納得していく部分も凄い。ありえないと思うような展開なのだが、これは事実なのだから、あながち荒唐無稽だとは言い切れない。日本を離れこの最果ての地であるフィリピンのルバン島(彼らはルバング島とは言わない)でたった4人になり、やがてはふたりになり、最後はひとりになりながら戦いを続けていく。滑稽ではない。だけど、ありえないような話なのだ。アルチュール・アラリ監督はそこに魅力を感じたのだろう。だから、彼はこの過酷で困難な映画に挑んだのだ。これはそんな冒険映画なのである。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『Oats studios』 | トップ | 『草の響き』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。