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映画・演劇のレビュー

梨屋アリエ『シャボン玉同盟』

2010-03-09 22:25:51 | その他
 こういう小説を《YA文学》と呼ぶらしい。なんだか緩くて小説を読んだ気がしない。一応文字が書かれてあるから小説なのだろうが、話も単純なくせに、その上ペラペラで、とても文学作品とは言えないようなしろものだ。単刀直入に「つまらない」とまでは言わないが、わざわざ時間を使って読むほどのものではない。

 ケイタイ小説が流行った時も僕には不可能と思い、読まなかった。ジャンル的にこんなものは僕のテリトリーではないようだ。だが、まず1冊読んでみて、こういうものもこの世界にはあるのだ、と知れてよかった、ということにしておこう。

 4篇の短編からなる。いずれの話も、ほんのちょっとした不思議な出来事が話の導入に提示されそこから話は展開していくことになる。それぞれ同じように思春期の中学生の想いを描く。だが、導入の不思議から生じる出来事をありきたりな展開で見せていくだけで、それ以上のものはない。こんなたいしたこともない思いつきに付き合うほど暇ではない。まぁ、通勤電車2日分のことなので、怒るほどのことはないが。

 ジクソーパズルのように身体がバラバラになる少女。シャボン玉の中にいる女の子に恋する少年。世界征服をたくらむ女子中学生。心の中にタマゴがある男子中学生。そんな彼らの日常からそれぞれの想いが描かれていく。そこには特別な事件とかが描かれていくわけではない。とはいえこんな異常な設定である。それだけで事件かもしれないが。

 展開のなさは、書き手の力量不足というわけではない。この作家は故意にドラマチックなお話を避けようとしている。設定から予想される出来事をお決まりの展開で見せるのではなく、それを日常の中にきちんと埋もれさせるのだ。ここで大事にしているのは、少年少女のひそかな想いである。そしてそれを際立たせるための装置としての異常設定、ということだ。

 純粋な時代の子供たち。彼らの素直な想いが、こんなにも丁寧に綴られる。忘れていた子供の頃の(中学時代なのだが)純粋さがなんだか眩しい。読み終えてしばらくした時、こんなにもつまらない、と思ったはずのこの小説になんだか嵌まっている。もしかしたらこの作者は曲者かもしれないと思い始めた。

 と、言うことで、梨屋アリエの謎を解くために、今、彼女のひとつ前の長編である『スノウ、ティアーズ』を読んでいるところだ。第1章を読んだが、この人はやはり確信犯だった。唯者ではない。

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