アキ・カウリスマキの『真夜中の虹』を見た時の衝撃は忘れない。こんな映画があっていいのか、と思った。70分ほどの短い映画なのに、なんと豊かな映画だろうか、と思った。一切ムダのない緊張感が漲る。簡潔な文体が映画の豊穣さを支える。無名だった彼はあの1作で、いきなりスター監督になった。それ以降、必ず見る。公開された映画はすべて劇場で見た。
だけど、だんだんあの感動は過去のものになりつつある。今回もそうだ。もうときめかない。悪い映画ではないし、確かに面白い。だけど、なんだか中途半端な出来のセルフ・リメイクを見ている気分で、少し退屈した。無愛想な主人公たちが、ありきたりに見える。このくらいカウリスマキの映画なら当たり前、と。
移民を扱う3部作の2作目である。前作、『ル・アーブルの靴みがき』は好きだったけど、今回はあまり乗り切れなかった。お話が中途半端で、ユーモアと残酷さのバランスが悪い。相変わらず朴訥とした主人公。無表情で何を考えているのだか、よくわからない人たち。でも、シリア難民である主人公は、ここで暮らす人々の優しさに支えられ、なんとか生きていける。まぁ、人情劇なのだが、甘いだけの話ではない。厳しい現実も突きつけられることになる。
ただ、いろんなことがなんだか予定調和に収まる。それが見ていて物足りない気にさせるのだ。衝撃がない。なんでもないような描写まで新鮮だった彼の映画がなんだか既視感しか感じさせないものになった。それがショックだ。ラストは右翼に腹を刺されて死ぬ。最後に妹が難民認定のため警察に行くのを見送るシーンなのだが、そこに明るい未来はないだろう。
誰かに頼るのではなく、孤独になる。これまでたくさんの人たちに支えられてやってきた。その先がこの孤独なのならそれまでのみんなの善意は報われない。