久しぶりの吉本ばななの新作だ。デビュー作『キッチン』からほぼ欠かさず読んでいるけど、スカスカの文体が時には感動的で、時にはつまらなくて、子どもの作文レベルに映る時もある。かなり微妙で、まるで無邪気。だからいつもドキドキさせられる。
今回も一見重い話。両親と共に宗教団体に入った(入れられた)少女が幼なじみの友人に助けられて脱会するまでの話だし。なのに軽い文体でサラサラ綴られていく。深く突っ込まない。しかもラブストーリーにしてもいいけど、しない。シンプルなストーリーのままで終わる。なんと150ページほどである。彼女の痛みも彼の想いもさらっと描き、あっさり終わった。
相変わらず短編小説のような薄さ。一応中編小説だけど、深い内容はない。一見薄っぺらい話をさらっと書いただけのもの、に見える。
しかし、主人公の彼女は10代後半の人生で一番大事なときを4年間も団体の施設内に閉じ込められ生活していたのだ。知らない間に洗脳されて、正常な判断ができなくなる。悲惨な話だ。
そんな彼女を幼なじみの男の子は救い出す。わりと簡単に。そう見える。しかも、その宗教団体は必ずしも怪しいカルト教団というわけではない。ちゃんと手続きを踏むと解放してくれた。だからよかった、よかったで終わる。
だが、そんなところが実はかなり怖い。このあっさりした小説はそれだけで終わるが、彼女たちの人生はここから始まる。失われた時間を取り戻すことはできない。そして痛みは深く沈澱したままである。