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映画・演劇のレビュー

『スティルウォーター』

2022-10-06 10:19:57 | 映画

2時間19分の長編作品だ。内容が地味で淡々としているだけにこの長さは異常だ。十分2時間以内に収められる話なのに、あえてこの長さで見せるのは、彼女の抱えた5年の長さゆえか。さらにはここからまだあと4年も続く時間を観客である僕らにも体感させたいからか、なんていううがった見方すらさせるくらいに、単調で長い。でも、映画はそれでつまらないわけではない。それどころか実に適切な長さだと実感させる。この映画を見た後で見た『マイ・ブロークン・マリコ』の短さと対照的だ。そして、どちらも適切。なぜ、この2本かというと、そこではどちらも女同士の友情が描かれるからだ。好きだから殺してしまう。好きだから自殺してしまう、という設定の酷似。もちろんまるで別の映画なのだけど、たまたまほぼ同じ時に続けて見てしまったため2本からセットで見えてくるものがそこにはあった気がする。これは『スポットライト 世紀のスクープ』のトム・マッカーシー監督作品。

父親は娘に会うためオクラホマからマルセイユに行く。彼女は殺人罪で収監されている。あれから5年経った。あと、まだ4年。娘は無罪を主張している。殺したのは自分ではない。殺して欲しいとは言ったけど、本心からではない。映画は謎解きではなく、マルセイユで暮らすことになった父親の日々が描かれる。改心した父はこの地に留まりなんとかして娘を助けたいと思う。新犯人を探し出そうとする。

マット・デイモン演じる父親はダメダメ男で、娘は彼から離れるためアメリカからフランスのマルセイユの大学に留学した。そこで出会った恋人と同棲していたのだが、彼女が(恋人は女性だ)すぐにほかの女(男)と恋仲になるのに嫉妬して、感情的になって知り合いに「殺して!」と依頼する。本気なんかじゃない。でも、依頼された男は殺してしまうのだが彼女が犯人として殺人罪で9年間刑務所に収監される。

『マイ・ブロークン・マリコ』の父親尾美としのりは一瞬しか登場しないけど、こちらのマット・デイモンは主役だからずっと登場する。もちろん映画は娘ではなく、彼の想いが描かれる。彼は石油会社で勤めていた肉体労働者だが、職を失い、娘のもとに行く。変化できずに沈んでいく街スティルウォーターとこのダメな父親が重なる。移民の街、変化するマルセイユとの対比。ドラマはそんな背景を持ち、そこから父と娘のドラマが紡がれていく。

父のせいで壊れてしまう娘という共通する図式を描く優れた2本の映画を連続して見て、そこに描かれる複雑な想いに心が揺れる。

 

 


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