映画も芝居も見れないから、最後の砦は小説とDVDだ。通勤と夜の時間なんとか、やりくりして結構たくさんの本と映画を見た。簡単におさらいしよう。
代表して3本の映画と1冊の小説について先に書いたけど、小説に関してはほかにも面白いものをたくさん読んでいる。実をいうと『未来』よりも凄い作品がたくさんあるのだ。
舞城 王太郎『私はあなたの瞳の林檎』は3つの短編連作。三角関係が描かれる。恋愛の定番だ。さらには、誤解やすれ違い。だけど、それがちょっとふつうじゃない。もちろん、恋はいつだってその人その人で同じものはない。特別だ。だけど、第3者からいわせてもらうと、「あんたの恋は月並み」ということになるのも定番。特別だと思うのは当事者だけ。だけど、この3つのお話は確かに特別だわ、と思わせる。今年一番の傑作『友情だねって感動してよ』の直後に読んだから、あれには及ばないけど、このへんてこさは特筆に値する。
シナリオライターの向井康介が書いた初小説『猫は笑ってくれない』もおもしろい。これを読んで彼の新作映画が見たくなり、すると見事に公開中だったから、『ハードコア』に行ったほど、彼が作家として何を考え、どうそれを表現しようとしているのか気になる。そんな自伝的作品。(自伝ではないかも、だけど)シナリオライターと、監督のカップルのお話で、ライターがもちろん、男で(向井の分身)、監督のほうが女性、という組み合わせ。別れたふたりが愛猫の死を通してふれあうことになる日々が描かれる。
この小説の直後の村山由佳『猫がいなけりゃ息もできない』を読むことになる。こちらも猫を看取る話。たまたまだけど、しかも、10数年一緒に暮らしたイグアナのジェリの1周忌と重なるという偶然。
毎日の母親の介護疲れの日々とリンクするように若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』もたまたま読む。どんな話かも知らないで、(これは宮沢賢治の話だと、思い手にした! 芥川賞も知らなかった。)読み始めて「ありゃ、これはあかんわ、」と思いつつも、運命だと覚悟して、結局最後まで読んでしまう。76歳ひとりぼっち、はまだいい。うちの花親は86歳ひとりぼっち。と、本人は言うけど、僕が毎日通いで介護しているのだけど。
白岩玄『たてがみを捨てたライオンたち』がもう今の自分のこととは違うから楽しんで読めた。作品の出来もいい。これは子育ての話。男の方が主人公。25歳、30歳、35歳の3人の男たちがそれぞれ、結婚、出産、育児と、どう向き合うかが描かれる。3人による3つの話が同時進行で描かれていく。介護と違ってまだ育児には未来があるからいい、なんて思うのはリアルタイムで苦しんでいる若い夫婦には通用しないだろう。これはこれで切実な問題なのだ。経験者としてよくわかる。でも、今、この小説は楽しめる。よくできた作品だし。
多和田葉子『穴あきエフの初恋祭り』は前半の3つはよかったけど、だんだんついていけなくなった。後半はムリ。
令丈 ヒロ子『手をつないだままさくらんぼの館で』は仕掛けがあまり上手くない。前半の面白さが後半の謎解きで生かせない。スケールは違いけど、この構成はそういう意味では『未来』と似ている。