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映画・演劇のレビュー

水の会『サン』

2011-11-28 20:53:14 | 演劇
 水の会の最終公演だ。彼らのデビュー作からずっとほぼ全部の作品を見た。とても誠実な作風が好ましく、とても大好きな劇団だった。本作は、今では役者3人になった彼らが、自分たちのことを、とてもよく知っている3人の劇作家に書き下ろしを依頼した。2人芝居3本立である。演出は脚本を依頼された3人の1人である中村賢司さんが担当する。それぞれは30分程度の短編。タイトルには「サン」という言葉を入れること、というのが共通のお約束。なんともささやかで、楽しいお遊びだ。それ以外の縛りは一切ない。

 3本の芝居はそれぞれ自由に作家たちが自分の世界を展開している。一応役者への当て書きなのだが、役者よりも、自分の書きたいことを優先している。その姿勢が好ましい。今の水の会は結果的に役者集団になっている。しかも、彼らは個性派ではなく、作品の中にきちんと素材として収まる人たちだ。だから、彼らを輝かせるには、きちんとした自己完結する台本がいい。そうすると、素材として彼らはそこにぴたりと収まってくれる。

 空の驛舎の中村賢司さんの『quiet sun』は、登校拒否の小学生のもとを訪れる担任(原真)と母親(得田晃子)の話だ。この2人の対決だけで見せる会話劇である。なぜ、少年が学校に行けなくなったのかが徐々に明らかになる。真面目で一生懸命な先生と、学校に対して不信感を抱く母親。だが、これは誰が正しくて誰が間違っているのかを明確にするのではない。どちらにも分がある、とかいうのでもない。内容的には、母親に担任が追いつめられていくという展開をする。うろたえる担任の姿にはドキドキさせられる。だが、それだけではない。本当はこの先にこそ本来のドラマがある。だから、この芝居は大きなドラマのプロローグでしかない。これは30分で描けれるような内容ではない。

 2本目は、虚空旅団の高橋恵さんの『きらきら桟橋』。これは女2人の芝居だ。ひっそり暮らす姉(得田晃子)と妹(井尻智絵)。彼女たちの秘密に迫る。だが、ミステリータッチの作品ではない。壊れてしまった家族のその後を、静かに見せる。なんとも切ないドラマだ。高橋さんお生真面目な台本を中村さんが丁寧に見せて行く。2人の相性がいいから、安心して見ていられた。

 それに較べて本作は作家と演出家が水と油だ。極東退屈道場の林慎一郎さんの『サンスー』である。これもまた、いかにも林さんらしい作品なのだが、これは中村さんの守備範囲ではない。。テンポよく、畳み込むように様々なエピソードが断片的に描かれる。それらがやがてひとつになる。これを林さん本人が演出したならきっともっと速いタッチで見せるだろうが、中村さんの演出はひとつひとつをしっかり見せるから、普段の極東退屈道場よりはタッチが重くなる。だが、それが、結果的にこの台本の世界を的確に表現することを可能にした。それはそうすることでこの話がわかりやすくなった、とかいうのではない。ただ、きちんと各エピソードが描かれたことで、この世界が僕たちの中に染みこんでくる。そんな気になる。わかるとか、わからないとか、そんな問題ではなく、この世界が見えてくる気になるのだ。そこがいい。わからせようとするのではない。演出家もわからないものを、きちんと見せる努力をする。ウサギとカメ(アキレスと亀の話でしたが)は林さんと中村さんの関係を示す。

 3本の独立した世界を並べて見せる贅沢な芝居だ。水の会として今出来る限りのことがなされた。清々しくて、気持ちのいい芝居である。彼ら3人の今後の活動が楽しみだ。



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