習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

小池真理子『日暮れのあと』

2023-07-28 08:03:00 | その他

静かな日々を描く短編集。7つの作品は何があるわけではなく、ただ何もないのがこんなにも心に響く。もちろん実は何もないわけはないけど、何もないように暮らしていきたい、と願う。平穏な日々を過ごしていくことだけがささやかな願いだ。だが、そうはいかない。死が身近に迫ってくる。抗うことは出来ない。だけど、受け入れたくはない。

 
大好きだった叔母の死。妹と姪の死。ひとりになる不安。だけど、生きていくしかない。さらにはずっと年上の恋人の死(彼が殺したのだが)、家政婦をしている家の主人の死、夫の突然の死と続く。こんなにも死ぬことばかりを描くというのは異常ではないか、と思うほど。まるで何もない、ことはない。そこには必ず死がある。ようやく6つ目の『微笑み』で誰も死なないから、ホッとする。だが描かれる孤独はそれまでと同じ。ただ、それは決して寂しいというわけではない(と、思いたい)。
 
そして最後にタイトルにもなっている『日暮れのあと』を読む。なんとこれも誰も死なない。72歳の老女と若い植木屋の話。彼の恋人は64歳の風俗嬢。親子以上に歳の離れたふたりの恋の話を老嬢が聞く。描かれるのは老いと死。だが、それがなんと清々しいことか。小池真理子はこの7つの短編連作を通して、死ぬことではなく、生きていくことの素晴らしさを描いた。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『恋恋豆花』 | トップ | 大阪成蹊女子高校『バックル... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。