11の短編からなる。最初の作品『海』がその全体像を伝える。一艘の小舟でこの世界が終わった後の世界をたったひとり旅する者(本の表紙の絵には熊がそこには描かれている)は生命が絶えた静かな海を渡り、やがて陸に出る。廃墟の街。生き物の姿はない。彼は図書館に行き着く。たった1冊の母国語で書かれた本を手にする。読み終えた後、再び海に戻り、持ち帰ったある限りの本を海に流す、沈める。
不思議だけど納得する行為だ。もしかしたら、これは完璧な答えではないか、と根拠もなく思う。そんな不思議がさまざまななジャンルに亘る他の10篇にもある。『本泥棒を呪う者は』のリドル・ストーリーが全編を覆う。わけがわからない話も多々ある。100字の短編以下のものや、ミステリ仕立て、児童文学テイスト、まるでホラーに不条理、戦争ものSFまで、バラエティに富む。
だけどそこには一貫するものが流れている。僕たちはその『空想の海』を彷徨う。