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映画・演劇のレビュー

『大名倒産』

2023-06-23 13:35:00 | 映画

前田哲監督も怒濤の快進撃中。『すべては海に流れる』(あんなに素敵な映画なのに、興行的には失敗したし、それだけでなく、わけのわからない輩が酷評しているし)に続く新作が公開された。今度はコメディ時代劇だ。浅田次郎原作で、今話題の『らんまん』神木隆之介が主演している。

実はあまり期待してなかったのだが、これがまさかの傑作で、途中から何度も涙が出てしまった。笑って泣けて感動する、そんな凄い映画なのだ。主人公は一生懸命で、まわりが優しい。だから、応援したくなる。これはそんな映画なのだ。もうこれだけで今年は前田哲の年になった。今年はまだ6月なのにすでに傑作が3本である。豪華キャストがみんな生き生きしている。なんと浅野忠信がコメディに出てイキイキしている。

そう、これはバカバカしい設定のコメディ。なのに、こんなにも心温まる、心に沁みる映画になった。驚きだ。前田監督は一昨年、『そしてバトンは渡された』と同時に『老後の資金がありません!』を連続公開した実績がある。(同日公開はたまたま、だが)今回はそれを凌ぐ3作品連続公開。しかもまるで傾向の異なる映画でいずれも傑作。

何がいいかというと、主人公の神木が自らのキャラクターを生かして無邪気にいい人を自然体でのびのび演じたことだ。それが映画の方向性を定めた。まわりの若手、ベテランがそれに習って生き生き演じた。特に松山ケンイチ。あんなバカな役を大真面目にして嫌味にならない。同じ前田映画『ロストケア』の後、これをやるのが彼の凄さ。前田監督を信用して、彼を支えるために率先してバカをやり切る。だからみんなも(浅野忠信まで)ついていく。大仰なルックスでド派手な芝居をしても大丈夫。映画は崩れない。前田監督がちゃんとドライブしてくれるからだ。素晴らしいチームワークだ。

シリアスな時代劇ではなく、アチャラカすれすれの設定、展開だが、ラストまで破綻なく楽しませてくれる。エンドロールの楽しさは大林映画の傑作『時をかける少女』を思い出す。だからエンドロールの後にもうひとつ最高のエピソードが用意されている。それは幸せすぎる終わり方だ。

キャスト全員が幸せに演じている。大変だったと思うけど、この現場は楽しかったはず。お金はないけど、しかも借金が25万両(100億円!)ではあるけど、明るく元気にみんなで頑張る。そして苦境を乗り越えていく。ノーテンキなハッピー映画。だけどそれが一番です。こんな映画こそ大ヒットして欲しい。


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