久々に佐藤香聲の演出、三名刺繍の台本という黄金コンビによる『SMオペラ』の新作を見る。今回もまた阿鼻叫喚のスペクタクルである。刺激的で過激な表現や描写で驚かせながら、この魔窟で繰り広げられる狂宴を「演劇にバレエや民族舞踊、ショーダンス、フェティッシュショー、そして音楽ライブを融合させた舞台表現」で見せていく。それは演劇という枠組みには簡単には収まりきらないパフォーマンスだ。毎回、新鮮な驚きを提示してくれる。
ストーリーラインの骨格は基本変わりない。ただ、そこにありえたかもしれない出来事に加えられたさまざまなバリエーションで見せていく。ある種のパラレルワールドだ。舞台は1930年代魔都、上海。ひとりの女がある男に連れられてその娼館にやってくる。男は女を調教するようにこの館の女主人に命じる。ここまでの筋立ては毎回同じだ。そこにいるさまざまな女たちとの出会い。そこで見知らぬ男たちに組み敷かれ体を開くことで、「何か」が彼女を変えていく。
今回は「映画」がお話の中心をなす。満州キネマの理事長、甘崎(もみじ)が愛人であり看板女優でもある桂蘭(久代梨奈)を異人相手の高級娼館「春楼夢」に誘う。ここで調教するためだ。清楚なお嬢さんである彼女は華やかな映画界のトップ女優の顔と異人相手に体を売る娼婦の顔を持つことになる。演技力向上のため、さらには女としての腕を磨くため、甘崎の言いなりになりここで過ごす。そこから始まる物語は明らかにモデルとした甘粕正彦や李香蘭、川島 芳子に囚らわれることなく自由な発想で架空のありえたかもしれない歴史を綴る。
今回は従来より過激な描写は息を潜める。そのぶんお話の比重が高い。甘崎の目指す映画はただの国策映画だ。それに対抗し、抗日映画を作ろうとする監督、マチノと脚本家、海原たち、さらには男装の麗人、川島が桂蘭のもとにやってきて、お話は展開する。現実と妄想が交錯し、あやかしの世界が出現する。すべては夢の出来事なのかもしれない。
これは100分間の夢想の世界。主役の久代梨奈は従来のこのシリーズのマネキンのようなヒロインとは違い強い意志を感じさせる。流されていく人形のような儚い女ではなく、ここで自分が何をするべきなのか、何ができるのかを自分の意志で感じ取り行動する女だ。このあやかしの世界に風穴を開けようとする。従来以上にストーリー重視のドラマ展開もそこにうまく作用した。その結果完成度の高いドラマを作り上げることに成功している。映画と現実のはざまで展開する幻想的なドラマは、やがて戦争という背景に飲み込まれていく。奴隷として隷属していたはずの桂蘭は主人に反旗を翻す。日本や欧米列強に対して中国が自らのアイデンティティを取り戻すための戦いが始まる。
余談だが、チラシをよく見ると、『Shanghai Melancholy OPERA』(上海・メランコリー・オペラ)とある。『SMオペラ』ってそういうことだったのか、と今更知る。