テラヤマ博『レミング』再見

　初見の時よりも、当然のことだが、冷静に作品全体を見ることが出来た。ダンス・シーンがかなり多いと思ったのだが、そうでもなかった。要するにそのシーンに圧倒的な迫力があり、他のシーンの印象を凌駕していた、ということなのだ。

　栃村さんの母親の場面と、遠坂さんの女優の場面のバランスに対する印象はあまり変わらない。ただ、人形を使ったパフォーマンスがすばらしく、結果的にあの母親の存在感がそれだけ高まることになったようだ。

　若い夫婦が、隣の部屋の男女の睦み声を聞く。すると部屋を隔ててあるはずの壁が消えてしまう。ここから始まるこの芝居は、見る、見られるという世界の在り方を通して境界によって隔てられていたものがなくなった時、世界はどうなっていくのかということを見せる。さらには目に見えない壁が僕たちを隔てていることの意味、そんな象徴的なテーマも展開して見せてくれる。

　畳の下に閉じ込められた母親、記憶を失った女優と彼女の映画を撮り続ける監督。医者と患者。相対するものが、機能を簡単に交換していく。そんな中で、幻のような真実が見えてくる。もちろんそんな理屈はどうでもいい。ただひたすらこの圧倒的なスペクタクルに魅了されたならいい。この世界で遊ぶ、それだけでいい。