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映画・演劇のレビュー

野中ともそ『鴨とぶ空の、プレスリー』

2011-11-06 20:38:09 | その他
 こういう児童書に近い作品を読むことで、得るものは大きい。理論社のラインナップは自分にとって、ちょっとしたカンフル剤になる。忘れそうになっていた気持ちに気付かせてくれ、大事なものを、教えてくれる。このかなり乱雑そうに見えて実はかわいいイラスト(北村ケンジ)もいい。それは、2人の主人公の顔と姿(鴨を頭にのせたのと、ギターを持ったのと、②パターンある)である。表紙には、彼らとともに旅するとんでもないオヤジが2人。それはキンヤスの父親と帝王だ。(というか、これはプレスリーそのものだ!)

 この4人がこの小説の主人公である。やんちゃな少年キンヤスと、おとなしい陸くん。彼ら2人の1人称で、話は進展する。4章仕立てで、主観が交互になる。彼らが、オンチでプレスリーおたくのミュージシャン志望の超いいかげんなキンヤスのダメ親父に付き合い、なんとプレスリーのふるさとであるメンフィスまで行くこととなる。しかもプレスリーと一緒に、である! なぜか日本語を操る(彼は翻訳こんにゃくみたいなものを持ってるらしい)その男は自らを帝王と名乗り、プレスリーの亡霊か何からしい。(まぁ、誰もそんなこと信じてないけど)ただの頭のおかしいオヤジだと思うけど、でもなんか一緒にいると楽しい。だから、意気投合した(そりゃぁプレスリーつながりだし、同じような「もみあげ」もしてるしで)キンヤス父はこの男を自分の部屋に居候させる。この4人が繰り広げるかなりゆる~いお話である。

 だが、この子供騙しでしかないようなお話が、なぜかやはり心地よいのだ。だから、こういうよく出来た児童文学はやめられない。描かれる世界に無邪気に溶け込み、その中で描かれる「大切な何か」をしっかりと(素直に)受け止めればいい。

 人間にとって大事なことは何か。46歳にもなって(一応は仕事も持ってるけど、あまりやる気がない)プレスリーのコピー・バンドでメジャーデビュー目指すオヤジ(しかもオンチ)にひっぱられて、彼の夢に巻き込まれる中学生。子ども以下の大人と、その保護者となる子どもたち。そんな微笑ましい図式の中から見えてくるのは、夢を追い求めることの大切さだ。そんな当たり前のことをバカな大人から教えられる。

 行こうと思えばどこにでも行ける。だって、実際にメンフィスに来たのだから。初めての外国。初めてのアメリカ。中学生の男子2人が夏休みの旅でそんなとこに行くのだ。そこで、普通のパック旅行では味わえない経験をする。これはたわいない小説かもしれない。だが、そんなことどうでもいい。なんだかすがすがしい気分になれた。それだけで、充分なのだ。

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