本木克英監督がこういう社会派映画に挑むというのがうれしい。デビュー作『てなもんや商社』からずっと彼の映画は見ている。僕と同世代なのに松竹の社員監督としてコンスタントに映画を作り続けてきた彼のキャリアは地味に見えて、その実、ありえないほど波乱に富んだものだ。何本か監督しても消えていくのが80年代以降の遅れてきた社員監督の宿命なのに彼は、山田洋次の弟子である朝間義隆ですら消えたのに、今でも、現役の監督として松竹で山田洋次と並んで唯一映画を作り続ける。コメディ中心にここまできた彼がついにこういう題材に挑むのだが、それは決して彼が望んだものではなかろう。与えられた仕事をちゃんとこなす。職人監督としての使命を全うするだけなのだ。
そんなところが潔い。今回この素材で2時間ジャストの映画に仕立てた。お見事! というしかない。こんなにも絵としては地味な映画を、ちゃんと地味なままで見せきった。出来そうで、その実は、簡単なことではない。TVみたい、と思われたなら、もうそれだけで失敗だ。だからといって派手な見せ場を満載できる映画にはならない。それだけに主人公に長瀬智也を持ってきたのは、正解だった。もちろん、このキャスティングだって彼の意向ではなく会社からのお仕着せだったのかもしれない。でも、長瀬が素晴らしい。そして、大根役者ディーンフジオカが、なんと、抑えた芝居で映画を壊さずに済ませた。そこも奇跡だ。
巨大な敵に対して徒手空拳で挑む中小企業の社長の意地が一発大逆転に繋がる快感。そこに映画としてのカタルシスがあるのだ。娯楽映画として、商業映画として、観客を満足させる映画を作れる。さすが20年も松竹一筋で映画を撮ってきただけのことはある。