『あと少し、もう少し』の続編なのだが、駅伝の話ではない。あの小説のスピンオフというスタンスになる。でも、前作を遙かに超える面白さだ。(もちろん、前作も充分面白かったけど)あの駅伝を走った大田が高校生になり、今は16歳。3流高校に行き、やる気の起きない毎日を送っている。そんな彼がひと夏の間、1歳10ヶ月の女の子の子守をすることになる。
今ある現状に不満を抱きながらも何も出来ず、流されるように生きている少年が、2歳にすらならない女の子のお世話をすることで、そこに生きがいを感じ、毎日充実した日々を過ごすことになる。このありえない展開のお話は、その意外な組み合わせの中から、真実に行き当たる。
子育てをテーマにした小説なら今までもそれなりにはあったかもしれないけど、子供が子供育てることになる小説なんて、なかったはずだ。というか、赤ちゃんに毛の生えたような子供に教えられることになる。少年は1歳の女の子を通して、生きていくことの意味を知る。まだ、本能だけで生きている子供と毎日向き合うことで、純粋に「生きる」という大きなテーマと向き合うことになるのだ。
目の前だけを見つめて、瞬間に完全燃焼して、終われば次の標的に向けて、また、全力投球する。疲れたら、倒れるように眠り、目覚めると、また、全力で遊ぶ。子供のエネルギーに翻弄されることで、少年は自分が今何をすべきなのかを教えられる。確かに「君」が夏を走らせるのだ。少年は、ただ、彼女について行くだけで、かけがえのないこの最高の夏をみつけられることになる。