2011年の作品で、今の今まで読んでいなかった。こんな傑作なのにそれを今日まで読み逃してきていたなんて、情けない。でも、今、これを読めてよかった。こんなに凄い作品をスルーせずに済んだのだから。ふつうなら大島真寿美なのだから、新刊が出たなら絶対に読むところだ。なのに気づかなかった。まぁこんなふうにして見逃して(読み逃して)いる小説なんてきっとたくさんあるのだろう。(映画はほとんど見逃してないはずなのだけど。)
さて、この小説は、映画監督が主人公だ。しかも、女性で、まだ若い。30代の新鋭。彼女がある映画祭でグランプリを受賞した。3大映画祭のような権威のある大きな映画祭ではない。(河瀬直美や是枝裕和ではない)ここからメジャーデビューに繋がるわけでもない。これからもマイナーシーンで低予算の小さなマーケットにしかかからないような地味な映画を「作りつづける」しかないようだ。だが、彼女はこれからも映画を作る。彼女には映画しかない。
この小説はそんな彼女を主人公にするわけではない。いや、しないのだ。彼女はほとんど登場しない。(まったく登場しない、というほうが意図的でいいはずなのだけど、なぜか少し、出てくる)これは彼女を巡る6人の女たちのお話。彼女の受賞の知らせを耳にした6人のそれぞれの「今」が綴られていく。昔に、あるいは今も、彼女と関わってきた。彼女と映画を作ったことのある女もいる。それぞれがそれぞれの事情を抱えて生きている。そんな彼女たちの点描だ。そこからその中心にいるはずの、女性監督の姿が浮かび上がる。
だけどこれはあくまでも6人の女たちのお話だ。映画に魅せられた女たちが実人生を映画のように生きる。ラストのシナリオは彼女たちのその後ではない。これもまた、彼女たちの今であり、そして、映画は続く。生きていることが映画そのものだ。そんな気分にさせられる。