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映画・演劇のレビュー

松岡圭祐『ジェームスボンドは来ない』

2014-05-08 21:21:09 | その他
こんな事実があったのか、そう思うと、なんだか胸が痛い。このノンフィクションっぽい小説を支えるのは、直島に「007映画」を呼ぶという無邪気な試みが村民の願いになるところにある。よくある村興しの話なのだが、007というところがいい。

そして、そこには、ひとりの少女が大人のみんなを引っ張って、夢の実現に向けて前進していく姿が描かれる。やがては県を動かし、一大プロジェクトとなる。だが、予算はつかないし、実現への道は険しい。大体彼らは007をそんなには知らない。もともと主人公の少女なんて007なんかまるで知らない、という人だった。一世を風靡したはずの007がこんなにも落ちぶれたのに、その007を担ごうとした彼らが、やがては007に裏切られていく。

現実の出来事を背景にして壮大なプロジェクトが、瀬戸内海の小島で進行する。
でも、これは壮大なドラマではない。どちらかというとほのぼのとした青春小説なのだ。その落差がいい。少女の成長物語になっている。

実名でいろんな出来事が描かれる。登場人物も本当はモデルがいて、事実がベースになっているのだろう。フィクションとしての小説と、実際の出来事とが見事にブレンドされて、まるでほら話のようなファンタジーが展開する。(でも、実話)嘘みたいだが、これはやはりさわやかな青春小説なのだ。しかも、ダニエル・グレイグ主演の新シリーズを通して、007が進化していく姿まで描かれる。取り残された昔のどんくさいハリボテの007映画の残滓がこの村に残される。007記念館は、低迷したあの頃の007映画そのもののように見える。そこに『007赤い刺青の男』なんていう幻の映画を一瞬夢見てしまう。そんな映画が見たかった、気もする。なんだか気恥ずかしいし、笑える。



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