習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『罪の声』

2020-11-04 21:32:16 | 映画

久々に重量級の映画を見た気がする。薄っぺらで、小さくて,底の浅い映画が横行する中、これはあらゆる意味で超大作にふさわしい作品だ。にもかかわらず,映画自身は慎ましい。鳴り物入りの映画から遠く離れて、地味で、華やかさからは無縁で、丁寧で、地道な映画なのだ。グリコ森永事件を題材にして、壮大なフィクションを提示していく。だが、それはとてもリアルで真相とはこんなものなのかもしれないと思わせる。

 

事件をリアルタイムで描くわけではない。事件から35年の歳月を経て明らかにされる真実の物語だ。脅迫テープに残された子どもの声。あれは自分だ、と知ったところから始まる知らなかった事実,隠された真実。大人になった少年が、(といって、もう彼は40代になった大人で、今は家族を持ち幸せに暮らしている)真相を追う新聞記者と事実を明らかにしていく。膨大な数の登場人物はいずれもあの事件に関わり合った人たちだ。彼らの証言から明るみになる事実。映画はそのひとつひとつを明らかにしていくことで、あの事件が何だったのかに迫ることになる。

これは壮大なスケールの映画であるにも関わらず、何とも慎ましい映画だ。声高に叫ぶことはない。事件物ではなく、歴史の1ページを描く映画だ。登場する人々(役者たち)の顔が能弁に語る。それは35年の歳月が人をどんなふうに変えるのかを見るようだ。傷みを抱えて生きていく姿が、少ない登場シーンでも、くっきりと描かれていく。

 

こんなにも地味で淡々とした映画なのに、2時間22分という長さを感じさせない。派手な場面はほとんどないのに、緊張感を全編で持続させる。まず、脚本(野木亜紀子)が素晴らしい。抑えた演出も素晴らしい。これは土井裕泰監督の最高傑作ではないか。終盤に登場する宇崎竜童演じる犯人のひとりが素晴らしい。この壮大なドラマの幕引きにふさわしい。

 


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