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映画・演劇のレビュー

青山七恵『花嫁』

2012-03-03 22:33:25 | その他
 4話からなる連作長編。主人公は4話とも変わる。最初は20歳の大学生、麻紀。その次は彼女の兄、そして父。最後は母。これはこの四人家族の話である。タイトル通り、花嫁を巡るお話なのだが、かなり異常だ。その異常がエピソードを追うごとにどんどん加速する。最後の母から兄の花嫁になる人への手紙なんて、いくらなんでもそれはないだろ、と突っ込みを入れたくなるほどだ。リアルじゃないけど、ここまでいびつなものを作れるなんて、それだけでも、これはこれで立派だ。改めて青山七恵の「屈折さ」加減には驚かされる。ここまで来ると変態的である。

 妹の兄への近親相姦的感情が、描かれる第1話からスタートして、それはそれでかなり異常だと思うのだが、そんなものただのプロローグでしかないことが、徐々に明らかになる。4人が4人とも普通じゃない。一見穏やかに見えるものは、すべてそのあまりのいびつさに支えられていて、閉口させられる。ここまでやると、嘘にしか見えないのだが、この嘘臭さを紡ぎあげる彼女の情熱って何なんだろうか。とことん人間が信じられないのか、それとも反対に本能を信じるからなのか。

 先の『ジェントルマン』と言い、これと言い、どうしてこんな異常な人たちばかりが登場する小説を連続して読まなければならないのか。偶然とはいえ、なんだかなぁ、と思う。人間って、よくわからない。でも、そのよくわからなさを受け入れて、自分なりに生きていくしかないのだろう。心に正直になるのは大切なことだ。だが、その正直さが異常につながっている場合、ちゃんとストップをかけなくてはならない。だが、それが正しいか、間違いなのかの判断は誰がするのか。結局は自分ではないか、と言われると愕然とするしかない。確信を持って正しい選択をして、悪を為す『ジェントルマン』の主人公のような人間もいるのだ。この『花嫁』の主人公4人も、彼らは彼らなりの正しい選択をしているのだろうけど、なんだかプチ『ジェントルマン』になっている気がする。それって怖くはないか。より正しい冷静な判断が欲しい。それを理性と呼ぶのは少し違う気もするし、なんだか難しい。

 兄の婚約者となる富子への感情。幼い頃、毎夏を過ごした従妹である彼女と再会し、すぐに結婚を決意する。妹はあんなにも彼女を嫌っていたのに。父の昔の恋人である弓子への屈折した想い。そして、母のかつての婚約者への秘めた想い。いずれも、これはないわ、と思うくらいに作られたお話だ。細かいことは自分でこの小説を読んでもらうのがいいと思うけど、ここまでやるか、と思わせる複雑な心の綾が綴られる。でもこの作者は、そこまでやりたかったのだろう。なんとも業が深い。



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