これまで読んだ2冊(『山の上のランチタイム』『山のふもとのブレイクタイム』)と同じで、この人の文章はわかりにくい。こんな話なのになんだか読みにくいのだ。きっと文章を書くのが下手なんだろう。読んでいてイライラする。もっとシンプルにお話が流れてくれたっていいはず。なのに、まどろっこしい。それはストーリー展開のさせかたなのだが、同時にこの物語の主人公たちの心の問題でもある。作者と主人公たちはとてもよく似ているのだろう。単純な問題を一人で複雑で面倒くさくしてしまう。でも、それが読んでいるうちにある種の快感にもならないでもないから微妙だ。
今回の主人公は手芸店に勤めて10年経つ女性。フェルトで人形を作るのが趣味。職場の先輩はとてもいやなやつで、でも、そんな先輩に対して何も言えない。仕事だからと我慢している。恋人もいるけど、年下の彼は優しいけど、つまらないやつ。ちゃんと働かないし、すぐ金の無心に来る。しかも貸してあげたお金を返したことがない。あげたと思うしかないと思っている。ほかの女と浮気もしているし、都合の悪いときは電話にも出ない。おいしいと彼女が作った料理を喜んで食べてくれるけど、食べた後の片付けなんてしたことないし、自分では何もしない。ただの寄生虫。でも、憎めないと思っている。自分が世話をしてあげなくては彼は何もできないから、なんて思って甘やかしている。
彼女はもう30歳になる。実家の母親からは、つまらない男とは別れてちゃんとした人と結婚して幸せになってよ、と言われている。余計なお世話、と言い切れない。そんな女性がひとりの少年とその父親に出会い、生き方を見直すことになる、というお話はとても簡単でよくあるようなパターン。なのに、それをスラスラ読まさせない。
フェルト人形作りをしているときは楽しい。趣味で作った人形だけど、ネットで販売を始めると、大人気となる。義理の妹から手伝うから本格的に人形作りをすればいい、と言われる。好きなことでお金をもらえて喜んでもらえるなら、と思う。と、こんなお話だ。とても簡単なお話でしょ。なのに、一筋縄にはいかないのだ。
でも、これが高森美由紀という作家のやり方なのかもしれないと思い始めた。『山の上のランチタイム』のときも終盤あきらめたところから、なんだか楽しくなったように、今回もようやくダメ男と別れたところから、楽しくなってきた。いろんなことは簡単にはうまくいかないことなんか誰でも知っている。だから、小説の中ではうまくいって欲しいと思うし、そんな展開が心地よい。でも、彼女の小説はまるで現実みたいに紆余曲折があり、上手くいかないことだらけ。真面目過ぎるのだろう。だから、まどろっこしいのだけど、それはそれでいいかぁ、とも思う。いつものことだし。