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映画・演劇のレビュー

重松清『ステップ』

2009-08-26 20:50:19 | その他
 もういいかげんこういう優しいだけのお話はやめてくれ、と思う。なのに重松清はまたやってくれる。厭なら読まなければいい。なのに、やはり読んでしまう。そしてやっぱり泣いてしまう。恥ずかしいよ。正直言って。嵌まるのではない。断じて。ただ、どこまでも優しいその世界に浸っていると、なんだか心地よい。だから、やめられない。

 1歳半の時に母親を亡くしてしまった女の子(というか、そのときはまだ赤ちゃんですが)と、彼女の父親のお話だ。2人の成長が9つのエピソードから描かれる。保育所に入るところから小学校を卒業するまで。いつもの重松節全開。改めて個々のエピソードについての感想を述べるまでもない。相変わらずの如何にもなお話で書くまでもないルーティーンだ。でも、読んでる2日間は楽しかった。主人公のパパと一緒に美紀ちゃんの成長を見守ってる気分にさせられる。

 『恋まで、あと3歩』という原題をなぜ単行本として、出版するにあたって改題したんだろうか。それは気になる。たぶん出来あがった小説では、原題にあったアプローチが叶わなかったからだろう。美紀ちゃんの成長を見守ることが主ではなく、本当は妻を失った彼が美紀からどう卒業するのかの方に作者の視点があったのだ。なのに気がつけばありきたりないつものお話になってしまった。その辺が今回の作品かもしれない。ということは、これは失敗作ということになる。

 30歳で妻に先立たれ男手ひとつで頑張った。それってなんだったのか。周囲の善意に支えられ、一生懸命生きた。みんなに気を使い、よく頑張った。ずっと再婚しなかったのは、ただの意地なんかではない。大好きだった妻のことが忘れられなかったことは確かな事実だ。しかし、それだけでもない。そんな彼が新しい人生を始めるまで、それがこの小説で本来なら描かれるはずだったのだろう。もちろんこれは悪い小説なんかではない。いい小説だ。だけど、なんだか悔しいし、あまり嬉しくない。天の邪鬼だなぁ、と思う。

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