習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『パブリック・エネミーズ』

2009-12-31 22:18:33 | 映画
 マイケル・マンの新作である。いつもながらの男と男の対決ものだ。だが、なんだか弾まない。『ヒート』や『コラテラル』では、あんなにも興奮させてくれたのに。理由はどこにあるのか。30年代を舞台にしたこと、デリンジャーという実在のギャングのヒーローを主人公にしたこと、ジョニー・デップが主演したからか。

 よくわからない。だが、見ながらなぜこんなにも弾まないのだろうか、とだんだん心配になってきた。いつもなら、追うものを主人公にしてきたのだが、今回は追われるものの側から描いているからか。しかもラブロマンスの要素も盛り込んで、それが彼の行動原理になってもいるのだが、なんか嘘くさい。

 リアルなドキュメンタリー・タッチを目指して、デジタル撮影で挑んだのも失敗の原因。『コラテラル』の時もそうだったが、デジタルは安っぽくなる。クリアな画像は映画のロマンを損なう。特に今回のように、30年代なんていう昔を描く場合のこの生々しい映像は作品世界のイメージを壊すだけで、何の効果もない。なぜ彼はデジタルに拘るのだろうか。不思議だ。予算がないのならいざ知らず、これだけの大作でこれはないだろう、と思う。

 追いかける側のクリスチャン・ベールもなんか精彩を欠く。彼がもっと魅力的でなくてはこの映画は盛り上がらない。映画の構造はいつものマイケル・マンなのに、なんとももたもたしたストーリーに流れと、甘い話なのに、その甘さがうまく表現できないもどかしさ。ここまで失敗した映画をマイケル・マンが撮るだなんて、がっかりを通り越して、驚きである。

 ただし、終盤の死ぬシーンはうまい。でも、ラストシーンだけよかっても、映画にはなりません。2時間21分もの大作なんだから、それだけでは意味はない。30年代の大衆のヒーローを主人公にして、なぜ今、これを映画として作らなくてはならないのか。よくわからない。恐慌時代に突入する直前の不安な時代を背景にして、見せたかったものは何なのか。それがここからは何も伝わらない。ジョニー・デップがかっこいいだけではダメです。

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