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映画・演劇のレビュー

満月動物園『ツキカゲノモリ』

2009-08-05 19:36:28 | 演劇
 初めての恋愛劇らしい。戒田さんがこんなにもストレートなお芝居を作るなんて、驚きだ。彼らしくない。と、いうか彼がこんなにも素直に恋愛を語るだなんて一体どういう心境の変化だろうか。ゆっくり聞かせて貰いたい。

 きっとどこかでいじわるなひねりがある、と思った。だいたいこんなに単純な話のままで2時間、本気で終わらせるはずがない、と思った。なのに、そんないらぬ期待をあざ笑うが如く、なんのひねりもなくそのまま終わる。参りました。

 シンプルなハート・ウォーミングを正直に見せる。本人はパンフに「照れくさい」と書いているが、まるで照れてないよ。直線的で一途で、気持ちのいい芝居になっている。これを照れながらやられると見てられないものになる。だから彼は肝を据えてかかった。清々しいくらいの衒いのなさ。善意の塊のような人たちによる心やさしい世界。観客はどっぷりとこの世界に浸っていればよい。僕らが生きるこの世の中はこんなにも優しくはない。そんなことみんな知ってる。だが、今は、今この瞬間は、この夢のような世界にどっぷり浸かっていればよい。これはメルヘンなのだから。

 遊園地の観覧車が突然倒れるという未曽有の事故で恋人を死なせてしまった男(片岡百萬両)が主人公だ。彼は自分だけが助かったことを悔いている。だが、彼は観覧車が倒れる最中、自分の命(だけ)が助かることを望んだ。隣で恐怖に震える恋人のことなんかまるで考えていなかった。そんな自己中な自分が恨めしい。しかも、その望み通り自分だけは助かり、彼女は死んだ。その事実に恐怖する。

 そんな彼の魂の旅が描かれる。同伴者は死神(河上由佳)である。死ぬ直前、彼は死神と約束を交わした。命を助ける代わりに魂を与える、と。彼が寿命を全うした暁には死神が魂を持っていく。ネタをばらすと、これは、死神となった恋人が彼の命を助けて彼とともに死神として生きる、という話だ。生きる気力を失った彼の再生の物語である。

 甘いだけのお話になりそうなところだが、河上さんの無表情で棒読みのセリフに救われる。彼女がためらいがちな1本調子で笑わせながら芝居を大きくリードする。同時に片岡さんの真面目な青年のキャラクターもこの芝居を助ける。この主人公2人を囲む女性たちがまた、いい。なんだかこれは男の夢を具現化させたような芝居だ。それを照れずに(本人は照れて、と言うが)やりきったところが素晴らしい。

 片岡さんは理不尽を仕方なく受け入れながらも、少し困った表情で6人の女たちに囲まれて、この魂の旅を終える。ラストがまた、素敵だ。ありきたりすれすれのお話を、最後まで見せきった。やはりそれって凄い。戒田竜治さんの開き直りがこの芝居を成功に導いた。

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