習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『バレンタイン・デー』

2010-10-08 23:43:32 | 映画
 こういうスタイルの映画は山盛りある。1日の話で、24時間の中で、いろんな人たちがそれぞれの場所で、悲喜こもごものドラマを体験していくというドラマをスケッチしていく群像劇。数年前に日本映画でも『大停電の夜に』という映画があった。『ナッシュビル』『ウエディング』、そして『ショートカッツ』など多数の作品でそのやり方を踏み、得意としてきたロバート・アルトマンや、僕の大好きな映画であるポール・トーマス・アンダーソン『マグノリア』なんかが、その代表作であろう。

 ゲイリー・マーシャルはこの題材なので、重い映画ではなく、軽やかなラブストーリーとして仕立てる。その結果これだけの人物を描くのに2時間になんとか収めようとする。大変賢明な判断だ。それ以上の長さになると、この作品のねらいがぼやけることになる。さまざまなコメディータッチの映画で幸せな物語を綴ってきた彼だからこそ、それが出来る。

 オールスターキャストである。老人から、子供まで、世代も置かれた状況も違う男女を同じ空間に配して、均等に様々なカップル達のバレンタイン・デーの1日を描いていく。特別な1日を描く映画だけど、別に特別な映画ではない。だいたい1年に1回は必ずやってくるような「特別」なのだ。だから、これって日常の延長でしかない。この日だけでなく、毎日こんなふうにして彼らは生きている。これは、この1日を通して残りの364日が見えてくるような映画になっている。さすがゲイリー・マーシャルだ。特別な1日を描くのだが、この映画自体は別に特別でもなんでもない。アベレージ映画だ。だが、それで充分だと思う。

 日々の何でもない暮らしの中に、特別な1日もある、というあたりまえのことが、肩肘張らずにさりげなく描かれてあるのがいい。見終えてほんの少し優しい気分にさせられる。この映画の登場人物は誰もがどこかでつながっているのもいい。そして、最後の最後になって忘れていた頃になって、ようやくジュリア・ロバーツがこの日にどうしても会いたかった人が登場するのだが、このシーンで胸がいっぱいにさせられる。「そうくるか」と思う。と、同時に「そうでなくっちゃ」とも思う。いいラストエピソードだ。


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