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映画・演劇のレビュー

『東京ウインドオーケストラ』

2018-02-23 22:27:41 | 映画

 

 ありえないことが起きてしまった。もうどうしようもない。それをどこに収めていくのか。最初はお互い気づきもしなかった。だが、なんだか、おかしいな、とは思っていたはずだ。でも、呼ばれたのは事実なんだから、行っちゃえ、と思い屋久島まで来た。有名なオーケストラとよく似た名前だったから間違えられて招聘された市民楽団が、市の大ホールでコンサートをすることになる。その顛末記だ。

 

10人のメンバーはオーディションで選ばれた素人軍団。それを新人監督が新人女優を主役に迎えて作る。ほとんど自主映画のノリの低予算映画。松竹ブロードキャスティングによる作品。だが、この小さな映画がとんでもなく面白い。よくあるコメディタッチの映画なのだが、ドキュメンタリータッチで描かれるお決まりの展開が、まるで先の読めない展開へとつながっていく。

 

ふつうなら誤解に気付いた彼らが逃げ出し、でも、なんとかして公演に担ぎ出し、成功させるとか、そんな安易な話に落ち着きそうなのだが、そうはさせない。彼らの世話を嫌々する市役所のやる気のない職員(中西美帆)が、彼らを励まして舞台に出すのではなく、彼らが自分たちから出たいと言い出すまでの展開が実に上手い。そんなバカな、と思いつつも、スクリーンから目が離せない。最後の逃げ出すシーンまで、とてもリアルだった。ここには嘘がない。ファンタジーでしかないお話をこんなにもリアリティのある作品(でも、やっぱりこれはファンタジー)にして仕上げる手腕はただ者ではない。坂下雄一郎監督はこの映画で劇場デビューした後、この1年ですでに2本の新作を作っている。そちらのほうもぜひ見てみたい。彼はきっとこういうなんでもない映画をしれっと作る才能を持ち合わせているのだろう。最新作『ピンカートンに会いに行く』もお話自体はあまり面白そうには思えないのだが、この映画のタッチを目にした以上、きっと同じようなしれっとした映画になっていて面白いはずだ。

 

今調べたらもう1本の『エキストランド』も大概な話で3本はちゃんとつながっている感じがした。骨のある新人の登場だ。

 


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