ノルマンディーの古都ルーアン。
大聖堂(写真上/内陣)、木製の扉の彫刻が素晴らしいサン・マクルー教会、木組みの家が並ぶ旧市街(写真中)、美術館などに秋の一日を過ごした。
この古都に、ジャンヌ・ダルクにまつわる遺産がある。
それは、幽閉された塔であり、火刑された広場であり、祀る教会などである。
美術館で、カラヴァッジョやシスレー、そして、モネの作品を堪能し右岸駅に戻る途中、彼女が幽閉された塔に寄った。
話は遡って、ロワール地方の古都オルレアン。
古くから交通の要衝だったこの町は、ゲルマンやローマ帝国やノルマンに侵略された歴史を持つ。
そのひとつ百年戦争の末期、イギリス軍に包囲され陥落寸前のオルレアンを救うべく、小さな村の羊飼いの少女が、“ 神の声 ” を聞いて彗星のように現れた。
その少女、“ ジャンヌ・ダルク ”。
彼女が、フランスを救えとの声、それは “ 聖ミカエルの声 ” であったり “ 聖カタリナの声 ” であったりしたらしい。を、聞いて3年、ようやく、ロワールのシノン城で、時のシャルル7世と会見、訊いた声のことを打ち明ける。
王の許しを得て、白い甲冑に身を固めフランス軍の先頭にたった彼女は、武器の代わりに、 “ イエズス・マリア ” と書かれた旗を振り兵士を鼓舞したという。
そして、オルレアンを解放、戴冠式がまだ済んでいなかったシャルル7世を正式に即位させるのである。
声によって得た勝利の後、政治家の権力争いや当時の宗教者の思惑に翻弄され、やがて、捕虜となる。
そして、敵国イギリスに身柄を渡され、宗教裁判により魔女の汚名のもと断罪、僅か19年の生涯を終えた。
今、人々は彼女を、“ オルレアンの乙女 ” と敬い、カトリック教会は5月30日を “ 聖ジャンヌ・ダルク ” の日として祝う。
話は戻って、石組みの何の飾り気もない塔、窓もなく明かり取りの開口が僅かにあるのみ。
カタリナ は、塔を前に、「彼女は、この暗くて湿った塔の中で、何を神に祈ったのだろうか?」と思う。
かの、“ 神の声 ” が約束した、「勝利と救いの国」へと彼女が旅立ったのが、ここルーアン。
秋の澄み切った空の下、無骨なまでに物悲しい姿で、 “ 幽閉の塔 ” (写真下)はあった。