先日の帰り、本屋に立ち寄りふらふらしている時、良寛全集が出たことを知る。
定本良寛全集 (全3巻)
その第1巻 (漢詩中心) が並べられていた。彼の書や漢詩には以前にも触れたことはあるが、その時にもう少し知りたいとでも思っていたのだろうか。その日は不思議や不思議、彼の声が面白いように=ごく自然に=何の抵抗もなく私の中に入ってくるのだ。秋の夜長にはもってこいの読み物と決め込み、仕入れてしまった。
それまでの私からすると読むことなどありえないような本を手に取っていること自体に驚きと喜びを感じている。
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還郷 郷に還る
出家離国尋知識 出家して国を離れ知識を尋ね
一衲一鉢凡幾春 一衲一鉢 (いちのういっぱつ) 凡そ幾春ぞ
今日還郷問旧友 今日郷に還って旧友を問へば
多是名残苔下塵 多くは是れ 名は残る苔下の塵
故郷に帰る
出家して故国を離れ、名僧を訪ねて修行を積んできた
一衣一鉢の清貧の歳月をどれほど重ねてきたことだろう
今日故郷に帰って昔馴染みに友人の消息を尋ねてみると
大多数が名前が知られているばかりで、今や死んで墓に埋められ、その石にも苔が生えている
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生涯慵立身 騰騰任天真 生涯身を立つるに慵 (ものう) く 騰騰 (とうとう) 天真に任す
嚢中三升米 炉辺一束薪 嚢中 三升の米 炉辺 一束の薪
誰問迷悟跡 何知名利塵 誰か問はん迷悟の跡 何ぞ知らん名利の塵
夜雨草庵裡 双脚等閑伸 夜雨 草庵の裡 双脚 等閑に伸ばす
私は生涯ひとかどの人になろうというような気にならず
自分の天性のまま自由自在に生きてきた
食糧といえば袋の中に三升の米
燃料といえば炉辺に一束の薪があるきり
迷ったの悟ったのという修行の跡などすっかり払拭し
名聞利養への執心などまったくない
雨の降る夜中、草庵の中に
両足をのびのび伸ばして眠るのだ
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これからゆっくり頁をめくりながら、気に入った詩を探すのが楽しみである。