ブレンド日記

世の中の出来事・木馬での出来事・映画の感想・本の感想・観るスポーツ等々ブレンドして書いてみました。

(46)「三千枚の金貨」宮本輝著(光文社)・・11/6日読了

2010年11月14日 | 本の事
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 桜の満開の時分にそこに立つと、背後から昇ってきた日の出によって長く伸びた自分の影が、正面の低い山のふもとにあたった一本きりの桜の木を覆う。
そこから桜の木までの距離は約700メートル。あいだには滅多に車の通らない県道と畑と田圃しかない。
溜息をついてあ然と見ほれるほどに美しい花を咲かせるその桜の根元にメープルリーフ金貨を埋めた。1/4オンス、1/2オンス、1オンス、合わせて三千枚。
場所は和歌山県、見つけたらあげるよ。

の書き出しで、始まる紫綬褒章受賞の宮本輝の新刊です。図書館で借りました。
受賞にあたり、「世の中はすぐに結果を求める風潮になっているが、若い人は20年先30年先に花を咲かせようという気概をもち、時間に挑戦してほしい」と週刊誌で語っていました。
宮本輝は文章の密度が濃いのがいいし、この作家の世界観は深い。読後感がとても爽やかで、そして底が見えない。しんしんと心が温まる。
大好きな作家です。

四十代の男たちの物語なのだけど、一言でいえば大人の童話かな?
いじわるとか、心の曲がった人は一人も出てこない。マミヤ文房具店の同僚も皆それぞれ相手を思いやる心を持ち合わせていて、会話だけでニンマリしてしまう。
素敵な大人の銀座のバーのママと、同僚3人の夢を追う物語。
みんな人生を焦らない。じっくりと夢を見て生きていく。

そんな、四十代の男のあらゆる問題、中間管理職とか、曲がり角の体調、仕事の重み、部下や後輩との距離感、親や親類の高齢化、ゴルフがなかなか上達しないという現象、書画骨董への近接、子供の成長、浮気心、そうした日々のもどかしさがぎゅぎゅっと詰め込まれていて、大きな物語です。

世知がない世の中、なのに人間関係がホントはいからで、カッコいい。
あくせくしてなくて、それでいて夢がある。

宮本輝ファンにはたまらない小説だと思います。

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