「誇」-URAWA REDS-
共に…
 



千葉みなと駅前の駐車場に車を停め、
京葉線で一駅目の蘇我駅で下車。
冷たい雨が降る春の日。
訪れるたびに街が整備され、漸く導線も整理されてきた。
「黄色も随分並んでるねぇ」
「ウチの試合だけ、だったりして」
アウェイ側最後尾はスタジアムの遥か彼方。
「開門時間工夫しないと、捌き切れないんじゃないの?」
14時になっても動く気配のない待機列。
「敵意を感じるよね、ここの運営はいつも」
チケットを購入した“お客さん”の扱いではなかった。
「ま、いいんだけどね」
まともに取り合うだけ時間の無駄、と思えるようになっていた。

GK都築
DF細貝・闘莉王・坪井・暢久
MF啓太・阿部勇樹・直輝・ロビー
FW原口・エジミウソン
リザーブ山岸・堀之内・アレックス・西澤・峻希・セルヒオ・高原
林に代わり峻希が今期初のベンチ入り。
「いよいよ3人の連携が観られるかもね」
主審は柏原ジョージ氏。
「また?」
荒れる天候、嵐の予感。

バックスタンドからメインスタンドへ向かって吹く強い風雨。
「選手はキツいだろうな」
原口がドリブルで仕掛けるも潰される。
「パスは回し辛いのかな」
速いプレスにボールを失う浦和。
「術中に嵌ってるみたいだ」
ボールを保持されると自陣に戻り隊列を整える。
掻い潜ろうとする動きをカットし前線へ急襲。
「良くないな…」
圧されている。
ここ数試合とは勝手が違う。
相手8番、9番を捕まえきれない。
「フィニッシュはダメダメだけどね」
縦の幅が狭く感じるスタンド。
跳ねる感覚が掴み難い。
「前に落ちそうになるんだよ」
勝率の良くないスタジアム。
数々の“嫌がらせ”を受けているスタジアム。
勝ちたい気持ちが先走る。

「ピッチ、相当滑るのかな」
選手たちが足を掬われる。
運動量も殺がれてしまっているようだ。
「闘莉王、パスミス多いな…」
決定機どころかシュートさえままならない。

前半終了、0-0。
「ジェフ、飛ばし過ぎだよね」
「前半だって最後の方、バテてなかった?」
90分で結果を出せばいい。
袖を捲ったままの腕に、冷たい風が刺す。
「早く始めようぜ、後半」

「エジ!?」
後半開始早々、接触プレーにエジが倒れる。
「カード、出さないの??」
49分、坪井に警告。
「それは出すのかよ」
審判団への不満が苛立ちに変わる。
58分、左からのクロスがGKの頭を越える。
「来た!!!」
ファーサイドにエジが突っ込む。
「やった!!!」
副審が走り出す。
「決まった!決まった!!」
浦和先制、0-1。
「アシスト、直輝!?」
これでいける。
先に取ればウチは負けない。

「向こうが焦れば追加点、取れるぞ」
ショートパスが繋がり始める。
無理な仕掛けをしなくなる。
「1点差でもいい、勝つんだ」
65分、闘莉王に警告。
「ちっ、またウチか…」
その直後、PA付近から千葉のFK。
「キッカー、誰かいるのか?」
スローインからロビーがドリブル、シュート。
「お、惜しい」
動きが鈍る千葉。
プレスが掛からず、イージーミスを連発する。
「やっぱり、疲れてきたよね」

76分、原口outセルヒオin。
「点、取らせてやりたかったけどね、グッチ」
当たり負けしないセルが相手を引き付ける。
が、中盤の押上げが効かない。
「このまま逃げるのかな」
「まだ、時間はあるぞ?」
メンバー表はおろか、時計さえ見えないゴール裏上段。
基準は自分のケイタイ。
86分、ロビーout高原in。
「こんな使い方なのか、高原…」
89分、直輝out堀之内in。
コーナーポスト付近でボールをキープ。
「粘れ、頑張れ!」

ロスタイムが過ぎる。
「もう終わりだよ、終わり!」
主審の手が小さく挙がる。
「終わり、だよな?」
プレーが止まる。
「勝った、勝ったぜ!」
選手たちが向かってくる。
忘れていた寒さを思い出す。
慌てて上着を羽織る。

「またイチゼロだよ」
「勝ちは勝ち、だからね」
駅までの一本道。
黄色い波を掻き分ける足取りは、軽かった。


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